ごろごろにゃーん。夢の中の僕はそう言いながら首を撫でられていて、気分が良くなっていた。毛は黒で、鈴のついた首輪をつけて優しい飼い主に育ててもらっている。自由気ままに過ごしているだけで日々が過ぎて行き、何も考えなくて良い。今の僕から見たらとても羨ましい光景だ。僕も姉さんも動物に生まれてくれば、こんな運命を辿らなくて済んだろうか、でもそうしたらお父さんやお母さんとは会えていなかったのだろうか。猫の僕には、この世の構造は難しすぎた。


目が覚めれば、カーテンからは太陽の光が透けているのが見え、朝だというのが分かる。何時だろうと枕元にあるデジタル時計を見れば8時と表示されていて、少し寝すぎたと思った。まだ寝ていたいと思って布団をかけ直すと、部屋の外から良い匂いが漂ってくるのがわかる。姉さんが朝食でも作っているのだろうか。じゅわじゅわと油で焼ける音に、ハムかベーコンを焼いてるような匂い。眠いが漂ってきた美味しそうな匂いで自分のお腹が空いていることがわかってしまい、僕の中では眠気と食欲のどっちが上か競い合っていた。どうせまだ寝ていたって僕の分の朝食はあるはずだから大丈夫、だがお腹が空いてしまって寝る気分でなくなってしまった。布団の中でそんな事を思っているうちにどんどん目が覚めてきてしまい、結局僕は朝食を食べることにし、布団からゆっくりと起きて大きな伸びをした。そういえば夢の中で猫だった時も体を伸ばしたなあ、と思い出し、そういえばそんな夢を見ていたんだっけ、と夢を思い出そうとしながら部屋を出た。


「そろそろ起こそうと思ってたけど、ちょうど良かった。おはよう、リンタロウ」


姉さんがエプロン姿でフライ返しを片手にそう言った。どうやら丁度朝食の準備が終わったようで、まさにナイスタイミングだった。テーブルの椅子に座ろうとしたが光貴さんの姿が見当たらないのに気付き、僕は姉さんに光貴さんの事を聞いた。


「まだ寝てると思うけど、起こすか迷っちゃって……」

「でも前も同じような理由で起こさなくて、光貴さん少し残念がってたよね…」


以前、ゆっくり寝かせておいてあげようと思って寝かせておいたら、光貴さんは10時ぐらいになってやっと起き出した。その時の光貴さんはとても残念がっていて、理由が「折角の休みなのにお前たちと出かける時間が減ってしまう」というのだった。僕達はそれを聞き、嬉しいやら恥ずかしいやらで何も言えなかったのを覚えている。
しょうがないから僕が起こしてくるよ、と姉さんに言って光貴さんの部屋の前に訪れると、ドアを数回ノックした。しかし起きる形跡はなく、僕は以前「寝起き悪いから思う存分揺らしてくれ」と言われたのを思い出して、その通りのしようと光貴さんの部屋の中に入った。

光貴さんの部屋の中に入ってみると、初めてこの家に来た時の印象と同じ感情を抱いた。物がとても少ない。リビングにあった本棚が移動されて来ているだけで、他にはテーブルとその上に乗っかっているノートパソコンと、光貴さんの寝ている布団がある。無駄そうな物が何もなく、とても質素に感じた。少し部屋をじろじろと見ていると、テーブルのパソコンの下から小さな紙が出ている。人の部屋を物色するのはいけない気がしたが、好奇心で手に取ってしまったので見てみると、それは銀行の領収書だった。送金額ウン万円と書いてあり、送り相手は光貴さんと同じ苗字の人だった。光貴さんの身内の人だろうか。そういえば以前聞いた留守電の……。僕はそれ以上考えるのをやめると、その紙を元にあったように戻した。これは光貴さん自身の事であり、僕が無闇に知るものではない。
何もみなかったことにして、僕は光貴さんにの布団の横にしゃがんで体を揺らした。


「光貴さん起きてくださーい……」


耳元で揺らしながら言うと、少しして光貴さんが動き出した。薄く目を開いて何回か瞬きをして目を慣らすと、徐々に目がいつもの大きさに開いていく。


「……おう」


いつものバッチリと決まった光貴さんとは大きく違い、乱れた髪の毛にカジュアルな部屋着の光貴さんはとても新鮮だった。僕は少し笑ってしまったが、それを誤魔化しながら「朝ごはん出来てるよ」と言ったら「何笑ってんだよ」と眠そうに笑いながら怒られた。


「少ししたら行くよ、先食っててくれ」


起き上がって首を掻きながら言う光貴さんの姿はとてもおじさんくさく、僕達と少ししか離れていないはずなのに、と少し思った。僕は「わかった」と言って光貴さんの部屋からでると、テーブルの上にはいつの間にか三人分の朝食がきれいに並んでいた。皿を見るとやっぱりベーコンがある、それに僕の大好きな卵焼きもあり、早く食べたいと言わんばかりに僕のお腹が鳴った。


「少ししたら行くから先食っててくれだって」

「そう、じゃあ先に食べよっか」


僕達は手を合わせると、幸せな日常に浸っていた時のように「いただきます」と声を揃えた。


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