プレゼントに悩みに悩んだ結果、俺はこの商品を選んだ。またあの悪夢が襲ってきてしまうんじゃないかと思ったが、ミサキちゃんなら大丈夫だと信じているし、妹達とあの2人が全く違うっていう事を証明したかった。俺はお店で丁寧に包装されたプレゼントを袋に入れてもらうと、それを受け取って店を出た。夜の少し冷たい風が俺の火照った体を冷まし、それと一緒に心に抱えた不安と恐怖さえも拭って欲しかった。
もしあの時と同じようになってしまったらどうしようとずっと考えているが、もう当日を迎えてしまったし、プレゼントも買ってしまったのでどうする事も出来ない。リンタロウも俺がミサキちゃんにプレゼントを用意している事を期待しているし、その期待を裏切るわけにもいかなかった。そもそも2人が俺の過去なんて知っているわけも無く、不安や恐怖は俺が勝手に抱えているだけだし、こうやってあの時と同じ商品を買ったのも俺が決めた事だ。傍から見たら自分で自分の傷口を抉っているだけなので、例えあの時と同じ事が起きてしまっても悪いのは俺になるだろう。自分で抉っておいて被害者ぶるのは大人げ無いし、あの2人は何も悪くない。
俺は運転をしながら自分の心に「大丈夫、大丈夫」と言い聞かせていた。ミサキちゃんだから信じてる、あの姉弟だからこそ信じている。そう思っていないと、息が詰まってしまいそうだった。

家に帰っていつも通り自分の部屋に行くと、リンタロウが静かに俺の部屋の中に入ってきた。ゆっくりと扉を閉めると、俺を見て唇の前に人差し指を立てて近寄ってくる。


「用意した? 姉さんへのプレゼント」


リンタロウは小さな声で言う。俺は「用意したよ」と言えば、袋を見せた。リンタロウはそれを俺の手から取って袋の中を覗く。


「…ねえ、中見て良い?」

「ええ…ま、まあ良いけど…」


リンタロウへのプレゼントでも合ったため少し戸惑ったが、了承した。リンタロウは床に座ってリボンを解くと、中に入っていた物を取り出した。それは俺があの妹達にあげた物と同じような物で、マグネットで手が繋げるぬいぐるみだった。今回は人気なキャラクターでもなく無難なクマのぬいぐるみだったが、女の子の方のクマの耳に赤いリボンが付いていて、それがミサキちゃんっぽく思った。リンタロウにその事を伝えようとすると、ぬいぐるみを持つリンタロウの手が微かに震えていた。俺はどうしたのかと顔を覗こうとすると、今まで見たこと無いような顔で思いっきり睨まれた。


〜〜〜〜


僕はそれを見て絶句した。なんで、あの時の物と同じ物なんだろう。あの日記に記されていたのはマグネットで手を繋げるぬいぐるみとしか書かれていなかったが、もしかしたらあの時と同じ物なのではないかと思ってしまった。何故光貴さんは姉さんの誕生日にあの時と同じ物をプレゼントするんだ? やっぱり、もしかしたら僕達を妹の代わりにしか見てないという事だろうか。そう思ったら、僕の中の理性をつなぎ止めてた糸が千切れたような音がした。僕の震える手に気付いて心配そうに顔を覗いてきた光貴さんと目が合うと、僕は思いっきり睨みつけて光貴さんの胸倉を掴んだ。


「なんで…なんで同じなんだよ!」


僕にそう言われた光貴さんは不思議そうな表情を装っていたが、何処か恐怖と不安も混ざっていた。しかし僕はそんな事にも気付かなく、感情に任せて口を開いた。


「知ってるんだよ! 光貴さんの家の事、妹の事、日記見て全部!」


光貴さんはそれを聞くとどんどん表情が歪んでいき、息が荒くなっていた。しかし僕はそんなのお構いなしに続ける。


「光貴さんの部屋を物色したんだ、それは謝るよ。…でも、光貴さんは僕達を妹の代わりにしか見てなかったんだよね…」

「! そんな事ない! 俺は!」

「じゃあなんでこれ何だよ! あの時と同じものじゃないのかよ!」


光貴さんの前にぬいぐるみを突き出すと、光貴さんはそれを見てすぐに視線を逸らした。何だよその反応は、やっぱりそういう事だったのかよ。僕は体中が熱くなると、いろんな感情が混ざり合った涙が溢れた。大部分は怒りが占めているが、悲しみ、絶望、その他にも沢山。僕は光貴さんの胸倉を離すと、自分の涙を拭った。


「僕達は光貴さんの事信じてたのに、光貴さんは僕達に妹を重ねてたなんて、酷すぎる……」


声をあげて泣きそうになるが、必死に抑える。結局僕達は地獄の底で泥に塗れた体を泥で洗っているだけだった。光貴さんは昔から優しくてずっと変わらないって、周りの大人とと違うって思っていたけれど、それは思い込みのようだった。結局、この世に救いは無かった。


「……なんで何も言わないんだよ…なんか言えよ! 言いたい事があるなら反論しろよ! ……してくれよぉ」


違うなら違うって、重ねてなかったら重ねてないってちゃんと言って欲しかった。でも目の前に座る光貴さんは怯えた表情で、静かに涙を流しているだけだった。


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