「家に父親が来たと言ってましたけど大丈夫?」


母さんは喫茶店のテーブルに頬杖を付きながら心配して無さそうな顔で言った。昔から感情が表に出ない人とわかっているので特に気にはしなく、俺は「まあね」と言った。
仕事終わりに会社を出たら母さんが待ち伏せてしていて、「今からお茶しましょう」と無理矢理喫茶店に連れて込まれた。この喫茶店は前回父親と揉めて以来来てなかったので、店員さんに顔を覚えられてないか不安だったが、普通に接客されて安堵した。


「それで今日は何の用?」

「買い物がてらこっちの方まで来たので顔でも見たいと思ってね」


自由気ままな母さんの行動に俺は苦笑いが出たが、相変わらずで安心した笑みも含まれていた。そして母さんにこの間の事を聞かれ、俺は自分でも整理するように話し始めた。俺は自分のためにあの子達を引き取ってしまったのかもしれない、利用しているつもりではないけれど無意識に利用してしまっているのかもしれない、と。話していくうちにどんどん気分が沈んでしまい、俺は不安で母さんの顔すら見れなくなっていた。もし2人がそんな俺に気付いてしまったら絶対嫌われてしまうだろう、俺はそれが一番怖かった。


「…光貴の悪い所は自分の信念が弱い所よ、貴方の2人に対する気持ちはそんな物なのかしら」


母さんは呆れたようにため息を付くと、背もたれに思いっきり寄りかかった。その姿は玉座にふんぞり返る女王様に見え、とても圧を感じる。今更だが、何故父親が母さんと離婚したのか少しだけわかったような気がした。


「2人を幸せにしたいから、好きだからで良いじゃない。現にそれで貴方の病気も治ったような物でしょ」


病気、鬱病の事だろうか。結局1回行って以来忙しくて出向いて無かったが、今の状況になって自分で心が回復しているのがわかっているので、もう不要だろう。
2人と過ごし始め、特に生きがいもなく機械の様に生きていた日々が一気に彩り、朝になって2人に「おはよう」を言うのがとても楽しみになっていた。今まで沢山2人に救われてきたので、今度は俺が救う番だと勝手に思っている。確かに、そんな信念を持って2人を引き取ったのは自己満足だって思われるかもしれない、でも母さんの言葉で俺は心が軽くなった。俺はそれで良いんだ。改めて自分の2人に対する思いに気付かされると、俺は涙が出そうになってしまった。俺は涙を誤魔化す様に満面の笑みを浮かべて「ありがとう」と言えば、「酷い顔ねえ」と笑われた。


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -