私達は家から少し距離のある公園に辿り着くと、ベンチで静かに座っているよりも揺られている方が気が紛れると思い、誰もいないブランコに腰をかけた。空を見れば朝は晴れていたのに薄い雲がかかっていて、今の私達の心情を表しているように感じる。隣のブランコに座ったリンタロウを横目で見ると、視線が地面に落ちていて悩んでいる様子だった。あんな物を見てしまったんだもの、無理もない。
光貴さんとは私達が小学生の時から知り合いで、とても頼れるお兄さん的存在だった。今も昔も悩みなんて無さそうな太陽みたいに暖かい笑みを浮かべていたのに、まさかあんな物があるなんて思いもしなかった。太陽にも私達には見えない裏側があるように、光貴さんにも見えない裏側が存在していた。別にそれだけでは怖くも何ともなく、人は誰しも言えない過去や悩みを持っていてむしろ当たり前ぐらいの気持ちでいたが、読んでいるうちに得体の知れない何かが私の心を侵食して不安心を揺さぶっているような感覚になり、最後まで読めなかった。今の私の心は罪悪感と不安で埋め尽くされていて、これから光貴さんと話す時にどんな顔をすれば良いのか全くわからなく、今の自分の表情さえも把握出来ないでいた。


「ごめん姉さん……僕が……」


私は隣のブランコに乗るリンタロウを横目で見ると、地面に視線を向けながら自分の手を握り締めているのがわかった。両手を交互に握っていて、力が入りすぎて手が赤くなっているのが少し痛々しい。いつもなら「大丈夫」と返すはずだが、今の私はリンタロウに気を配る余裕すら持ち合わせていなく、何も返せなかった。


「……どうしよう…見られたくなかった物勝手に見ちゃって…私達追い出されちゃうかも知れない……」


また親戚の家に逆戻りだ。私は込み上げた感情が涙となって溢れ出し、下を向いていると雫がスカートの上に落ちる。手で顔を覆って抑えるように深呼吸をしようとするが、嗚咽のせいでゆっくり息も出来ない。折角差し伸べてくれた手を掴んでは大人しく引き上げてくれるのを待てば良かった物の、私達は焦ってこちら側に引っ張ってしまって不幸を呼び寄せてしまった。私達は神様に見放されているのでは無く、自ら捨ててしまっていたのだ。それが悔しくて、どうにもならなくて両肘を自分の太ももの上に乗せると、体を丸めて声を上げて泣いた。高校生にもなって子供みたいに泣くのは少し恥ずかしくもあったが、それでしか今の私の心は晴らせなかった、


〜〜〜〜


横で声を上げて泣いている姉さんに対し、僕は何も出来なかった。いつもなら手を握ったり肩を抱いたりして慰めているが、今の僕では出来る気がしなかった。危ないとわかっていた橋を渡ろうとして結局踏み抜いて落ちてしまい、渡ろうと姉さんの腕を引いた僕に慰める資格なんて無い。

光貴さんの日記、思い出したくもないが頭の中で整理していた。人より少し積極性や興味が薄い性格な様で、小、中は何もかも面倒臭がっていた。そう考えると楽しかった事や嬉しかった事はほとんど記されてなかったかもしれない。唯一印象に残っているのは僕達の事で、僕達が編んだ花冠を貰って嬉しかったとか、クリスマスプレゼントの事とか、些細な出来事が大切な思い出のように書かれていた。面倒臭がりだった光貴さんが何故こんなに年の差が離れている僕達と遊んでくれていたのか、当時は考えもしなかったが今思うととても不思議だ。年の離れた年下と遊んで楽しかったのだろうか。1人っ子だった光貴さんは僕達と関わって姉弟を羨ましく思い、再婚して妹が出来たが随分と迫害され、トラウマに匹敵しそうな内容だったのに何故僕達を引き取ってくれたのだろうか。昔からの知り合いだったので大丈夫だと思ったのだろうか、しかし僕達も成長しているので、もし僕達がその妹と同じようだった場合はどうするつもりだったんだろうか。
それに、姉さんには教えなかったが、あの部屋で綺麗にまとめられた銀行の領収書の束を見付けた。宛先事にわけられていて、両親らしき人ととある女性に毎月送金していた。それで僕達を引き取ってしまった事で余裕が無くなってしまい、以前聞いた留守電が来たという事だろう。固定電話にはそれしか来なかったが、僕達の知らない所ではもっと連絡を受けているはず。それでこの間の男性に繋がるというわけだ。

一通り話は繋がったが、最大の謎は何故光貴さんが僕達を引き取ってくれたのかという事だ。一番最初にくれた手紙にも、再開してからもその理由を詳しく聞いた事は無く、僕達もあのお兄ちゃんだから問題ないと安心しきっていたので聞く必要も無かった。軽度な鬱病を患っていた光貴さんをここまで行動させた労力とは何なのだろうか。
僕は考えれば考えるほど光貴さんに対してどんどん疑いを深めてしまい、信じたい気持ちの中に疑ってしまう気持ちが芽生えてしまって収集がつかなくなっていた。
僕はもう、何を信じれば良いのかわからない。


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -