学校に行く振りをしていつも通りに光貴さんと同時に家を出ると、僕達は通学路の半分ぐらいを行った所で折り返し、家に戻ってきた。姉さんには何回も辞めようと言われたが、珍しく僕の心は揺ぎはしなかった。
きっかけは僕の心に残っている不信感だった。正直、僕達は光貴さんの事を知っているようで知らない。光貴さんの家の事とか、勤めている会社の事等、深いことは何も。聞こうとした事は何回もあったが、知らなくてはいい物も知ってしまうようで怖かった。だが、それでは僕は逃げているだけだという事に気付いた。僕も姉さんも光貴さんの事を信じている、だからこそ全てを知りたい。例えそれが酷く醜く汚い物であっても、僕達はそれを無かったことにしないで拾い上げるだろう。僕達は、光貴さんとそういう関係になりたい。

最初はそう思っていた。

僕達は光貴さんの部屋を物色して数時間後、数冊のノートを見つけた。それは大事そうに、というより思い出したくない過去に蓋をするような感じで綺麗なお菓子の箱の中に入っていて、卒業アルバムらしき物も一緒に入っていた。僕はそれを一冊手に取ると、パラパラと捲る。中は日記らしく、丁寧に日付も書いてあった。人の日記を読むなんて、しかも光貴さんの物をなんてとても気が引けるが、もう戻れない。それぞれの表紙に中学、高校と書いてある中何も書いていない表紙の物を手に取ると、僕は心してそれを1ページ目から読み始めた。


20××/×/×
会社の定期検診で軽い鬱と言われ、半ば強引に専門家に連れて行かれたらアダルトチルドレンと診断された。俺はまだ軽度らしいが、悪化する前に治そうと言われて治療が始まった。
まずは過去を探るという物をやるらしく、過去の事を紙に書き出したり話したりして見てと言われた。
小学生の頃は普通だったと思う。でも友達と遊ぶというのが苦手だったのか知らないが業間の時とかは1人でいることが多く、皆でわいわい楽しんでいるのも特に羨ましくはなかった。喋りかけられなければ喋らなく、今日は何人と話せたなんて数えていた日もあった。高学年が一番めんどくさかった。勉強とか徐々について行けなくなって、6年生だからって下級生の面倒とか見なきゃならなくて、全部任されるのが本当にめんどうくさかった。小学生なんてそれくらいしか思いつかない。
ゆっくりやればいいって言われたので、今日はここまで。

20××/×/×
中学も普通で、小学生の時よりは人付き合いは良くなったと思う。この時はとりあえず愛想を振りまいてればどうにかなると思って笑顔を貼っつけて過ごしていたが、俺が怒らないことを良い事にクラスの奴らが俺の事を弄っていた。シャー芯貸して欲しいって言われて貸してあげたら全部真っ二つに折られて返されたり、シャーペン分解されて組み立てられなくて結局壊したり。でも皆笑っていたので俺も一緒に笑い、何だかんだ許していた。今思えば周りが狂っていたし、俺自身も狂っていたかもしれない。
部活は2年生の途中まで入っていたけど、顧問が変わって適当に出来なく合わなく辞めようとした。でも顧問が中々辞めさせてくれなく、「毎日出なくてもいいから続けよう」とか「お前がいないと寂しくなる」とか言って引き止められてウザかった。
そんなある日母さんの友人が家に訪れ、リンタロウとミサキちゃんに出会った。最初は子守という形で触れ合っていたが、2人は俺の事を「お兄ちゃん」と人懐っこく呼んでくれ、めちゃくちゃ可愛かった事を今でも覚えている。普通に家が近所だったので家に行ったりもし、たくさん遊んだ。中学の時の俺はそれが唯一のストレス発散だった気がする。

20××/×/×
高校は多分一番最悪かもしれない。
両親が離婚して、直ぐに父親が再婚して妹ができた。最初は憧れていたので嬉しかったが、雰囲気がクラスの嫌いな女子みたいで関わる気は起きなかった。呼ばれることがあってもあの人とかこの人とか呼ばれて、何だか他人みたいに思えて家の中の居場所がなくなったように感じた。新しい母親も俺が高校生だったからなのかわからないがあまり気にしてはくれなく、あまり喋った覚えがない。
ある時、父親に「妹達と仲良くしなさい」と怒られたがあっちに言えよって思った。2人でこそこそと話しては俺を見てと笑う。それが嫌で一回指摘したことがあったが、俺の勘違いにされた。後は俺のクローゼットに部屋着を忍ばせたりいやらしい目で見てくると変態扱いされたり失敗を擦り付けられたりいろんな罪を着せられた。本当に嫌だった。帰り道に上の妹と偶然会い、彼氏の振りをしてと言われて腕を組まれたときは吐きそうだった。それを妹の友人に隠撮りされ、両親に見られた時は地獄だった。俺ばっかり頭ごなしに怒られ、何を言っても聞いてもらえなかったが、妹が弁解したらすんなり話は通った。何でこんなに差があるんだと泣いた覚えがある。
そんな時ずっと近所にいた姉弟の事を思い出してた。高校生になってからほとんど関わりはなくなったけど、俺を慕ってくれていて兄弟が出来たようでとても嬉しかった。まあ、今になっちゃ本当に俺のこと慕ってくれていたのかわからないけど。


それ以降も光貴さんの過去が綴られていたが、僕はノートを閉じた。想像以上の事が沢山書かれていて、今の僕達では拾い上げるには重すぎる。姉さんを見れば僕と同じように苦い顔をしていて、何か言えるような状況では無さそうだった。僕は姉さんに背を向け、勇気を振り絞って最後のページを探すためにノートを再び開くとさっき読んだページが最後だったらしく、日にちを見れば数ヶ月前だった。それは僕達がこの家に来た時期と同じ頃で、続きが書かれている物は無いかと他のノートも隅々まで見たが、それらしき物は無かった。


「どうしよう姉さん……」


僕達は開けてはいけないパンドラの箱を開けてしまった。

読んだ後の僕達には今まで感じた事のない罪悪感と焦燥感に駆られると、それを元に戻して逃げるように部屋から出た。そして家自体に得体の知れない恐怖を感じ、そのまま外に出た。


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