今日は人気俳優である土屋タクヤのスケジュールを調べて会いに行った。彼はあの時現場にいて、真っ先に隣の車両に逃げては扉を固定していた人だ。しかもドアの向こう側からこちらを撮影していて、それをネットにアップしてお父さんとお母さんを晒し者にした人でもある。僕は土屋タクヤが建物から出てくるのを待ちながら込み上げてくる感情を抑えるように大きく息を吸うと、口で吐いた。感情的にならないよう、冷静を保てるように今は息をすることだけを考える。すると土屋タクヤが建物の中から出てきて目の前を通り過ぎると、僕は彼の無防備な後ろ姿を見て呼び止めた。
しかし土屋タクヤと話してみて感じたことは、最悪の一言だった。当時の事を聞いてみれば面白かった思い出のように笑顔で話し、簡単で薄っぺらい言葉だけを並べていく。僕は込み上げてくる怒りを寸前で抑え、行き場のない感情を自分の拳に集めて強く握った。さらににそんな状況で撮影した自分が凄いという自慢等を聞かされ、僕はもう返す言葉も思いつかなくなっていた。


「その時の被害者家族のこと覚えていますか?」


一息ついて彼の顔を睨みつけるように見ながら聞くと、土屋タクヤは「自業自得だ」と言った。さらに子供がビビったせいで逃げ遅れた、子供を置いて逃げれば良かったとも言い出し、それを聞いた僕はさらに感情が高ぶって体が熱くなるのがわかると、今まで必死に抑えていた物が涙となって溢れ出した。お前が何を知っているんだ。相手に刃物を向けられた恐怖、目の前で親を殺された絶望、何一つ知らない癖して上から目線で知ったような口を聞きやがって…!
僕は土屋タクヤに近寄ると、胸倉を思いっきり掴んだ。相手の方が身長が大きいので頭を引き寄せ、僕の顔を、お前に殺された被害者遺族の顔をその目に焼き付けるように詰め寄る。


「お前! お前のせいで…!」

「な、なんだよ突然! 意味わかんねーよ! さっさと離せ!」


土屋タクヤがそう言うと、僕は思いっきり突き飛ばされた。咄嗟の事で受身が取れなく、地面に思いっきり打ち付けられる。痛いはずだが今の僕の頭の中は怒りで支配されていて、痛覚すら感じなかった。その後彼は僕に対して文句を言うとタクシーに乗って去ってしまい、追いかける気力も無く地面に横たわっていた。1人その場に残された僕の頬には涙が伝っていて、怒り任せに握って血が滲んだ掌に涙が落ちると混ざり合って濁った。膨大な殺意を込めて地面を思いっきり殴ると、今度はとても痛く感じた。


姉さんに土屋タクヤに会いに行く事を伝えていなかったのでそんな状態で家に帰るととても心配された。手の血を指摘されて手当をされながら今日の事を話していると、あの時の怒りが再び込み上げてきて僕の目には涙が滲んでくる。抑えも効かなくなり、泣きたくないのに泣いてしまう。涙を必死に拭っていると、いつの間にか姉さんも涙を流しているのがわかった。包帯が巻かれた手を優しく包み込んでくれていて、下を向いて泣いている。僕は涙を拭うのやめて姉さんの手を包み返すと、掌でお互いの体温を感じながら泣いた。
お父さんとお母さんの事を思っていたが、それと同時に土屋タクヤに言われた言葉が頭に深く焼きついて離れなかった。僕達がビビったせいで、庇ったせいで。それは一番他人に言われたく無い言葉だった。そんな事自分でも嫌程思った。だからこそ僕は体を鍛え始めた。今度こそ動けるように、守れるように。唯一残された、姉さんを守るために。

これでようやくわかった。殺人鬼であるユウヤを生み出した人達、助けることが出来た僕達を見殺しにした人達、そして心無い行為で僕達を苦しめてきた人達、実際話せたのは数人だが、誰1人として後悔している者はいないという事を。そんな現状が本当に悔しく、本当に許せなかった。そして僕は姉さんに提案をした。「国の法律で裁けられないのなら、僕達の手で裁こう」と。そんな事を言ってしまった僕は正気じゃなかったのかもしれないが、理性はあった。


「確かに私だって許せないよ……。辛いよ……。でも、今の私達には光貴さんがいるんだよ……」


姉さんにそう言われ、僕は言葉が詰まった。光貴さん、僕達を引き取ってくれ、とても優しくしてくれるお兄さん。もし僕達が何かミスを犯してしまったら光貴さんにも被害が及んでしまうかもしれない、感情に任せて動いてしまえば絶対穴が出来てしまうのでやるとするならばもっと慎重に、きちんと計画を立てなければならない。そんなことを考えていると僕の頭は徐々に冷め、落ち着きを取り戻していった。


「光貴さんがくれた優しさを私は捨てること何て出来ない……リンタロウもそうでしょ?」

「……うん」


光貴さん対しては僕も姉さんも本当に感謝している。でも、この間の男性との会話で光貴さんに対して少し不信感を抱いてしまっていた。次の日になったらいつも通りの笑顔で挨拶してくれたが一度感じてしまった不信感は拭えきれなく、残っては僕の心に住み着いた。


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