ついにこの時期が来てしまった。
夕神迅が希月真里を殺害したとして捕まり、嘘の自白をして刑務所に入れられてしまう。
私はこの事件の全貌を知っている。
画面の向こう側から見ていたから。
荒れるかぐやさんを見たくないがために、私はずらされる前の殺害時刻より一時間早く研究室の前の廊下に居合わせており、彼が逃げる瞬間、どうにか足止めを出来ないかと思った。
足音が聞こえ、タイミングを測って足音を立てる本人に体当りした。
的は命中した。体当りした相手はお面をつけて、真里さんの職員の服を羽織った亡霊だった。
私は死に物狂いで亡霊の足にしがみつき、身動きできないようにと思った。
しかし、」今の私は15歳の小娘だ。
大人の相手には勝てるはずもなく、簡単に振り払われた。
しかも亡霊は正体を暴かれることを恐れている。
壁に体を打ち付けた私は思うように体を動かすことができない。
正直殺される、と思ったが亡霊は逃げていった。ああ、事件を防げなかった。

目を開ければ白い天井があった。
辺りを見れば、病院だと察する。
起き上がってナースコールを鳴らせば、ナースさんが大慌てしながら医者を連れてきて検査をさせられた。
医者によれば、私は表側で事件に巻き込まれた可哀想な被害者となっていて、事件から三日も眠ってたらしい。
それから退院し、久々の学校帰りに宇宙センターに寄った。
受付のお姉さんに体を心配され、私は大丈夫ですと微笑んで見せた。
うまく笑えただろうか。
ロボットコーナーに行き、ポンタとポンコにかぐやさんのことを聞いたが、「誰にも会いたくない」だそうだ。
私はポンコとポンタに「かぐやさんによろしく」と言うと、休憩所に行って椅子に座る。

私はこの世界に来て、亡霊の事件を止めたかった。
少しはねじ曲げれるんじゃないかと思った。でもそれはただの願望に過ぎなかった。
亡霊を見た私が目撃者として証言すれば、何か変わるかと思った。
しかし私は眠っていていつの間にか事は進んでいた。
私は自分が許せなかった。
唯一未来を知っていて、助けられたのに呑気に眠ってた自分に腹が立つ。
腹が立つほど、涙がこみ上げてきた。
拭っても拭っても溢れるばかり。


「どうしたの苗字さん」


目の前にしゃがんで様子を伺ってきた葵大地。
まだ軽くしか言葉を交わしたことがなく、もう1人の助けたい人でもある。
葵さんにポツリポツリ話した。
真犯人と鉢合わせして気絶したこと。かぐやさんのこと。かぐやさんの弟さんが刑務所に入ってしまったこと。


「私が気絶してたなんてしてたばかりに目撃者として役に立てれ無かったんです。もしかしたら少しは変わってたかもしれないんです。なのに、私は……」


また涙が溢れてくる。
すると葵さんは口を開いた。


「すごいよ苗字さんは。……俺は希月さんが被害者になってしまって勿論悲しいし、夕神さんの弟が殺人の容疑で逮捕されてしまったのを全部含めて全てをまともに受けきれない。しかし苗字さんは俺と違って真正面に向き合っている。俺が言うのもなんだけど、そんな苗字さんだからこそ夕神さんの側に居てあげて欲しいんだ」


葵さんのほうを向くとばちりと目が合う。
すると葵さんが立ち上がって「途中まで送るよ」と言った。
私も立ち上がって一緒に宇宙センターを出た。帰り道はろくに話さなかったが、別れ際に「笑ってる顔の方が似合うよ」と言われた。
まさかの葵大地は天然タラシだった。