「今日も可愛いねマドモアゼル。また宗に新しい服を作ってもらったのか? 似合ってるよ」

『あらありがとう、今日の男主くんも素敵よ♪』

「あはは、マドモアゼルに言われたら照れるなあ」


机に伏せてマドモアゼルと視線を合わせている彼がそう言うと、滅多に見せないような柔らかい笑みを浮かべて頬を赤く染めた。僕には1度もそんな表情を向けてくれた事がないのに、などと思いながらも僕は布に視線を向けたまま作業を続ける。


『男主くん、最近あたしに構ってくれるのも嬉しいけど宗くんにも構ってあげて? あたしばかり話し掛けてたら宗くんが拗ねちゃうわ』

「静かにしたまえマドモアゼル」

「あーマドモアゼルがそんな事言うから余計拗ねちゃったよ」

「君の口を縫い付けてやろうか苗字」


僕は今衣装の作業に集中しているから君達に構っている余裕なんてなく、確かに最近の苗字はマドモアゼルに構ってばかりで前程の鬱陶しさはないが、寂しいとは微塵にも思ってはいない。僕は大きな溜め息をついて気合を入れ直そうとすると、苗字がいつの間にか頬杖をついてこちらを見ていた。


「…何か用かね」

「マドモアゼルに宗を構えって言われたから、作業見てようかなって思って」

「……フン、視線が煩わしいね」


僕は悪態をつきながら作業を再開すると、苗字はお構いなく静かに僕の手元に視線を向けた。僕の作業を君が見たところで理解なんて出来ないだろうに。暫くして異様に静かなので横に視線を向けて見れば、起きていたはずの苗字が机に突っ伏しながら寝息を立てていた。起きてる時はインコのようにうるさい苗字も、寝てしまえば人形のように美しい。僕は大切な人形が体調を崩さないように肩に何か掛けてやろうと思ったが、ちょうど手が離せなかったのでそのまま作業を続けた。