「名前、外って楽しい?」


いつも通り床に虫の図鑑を広げながら読んでいたカナトくんがいきなり聞いてきて、私はとても驚いた。私が知る限りでは、自分から外に関する事は全く聞いてこなかったし、興味も無さそうだったから。


「まあ、楽しいよ。カナトくんの好きな虫だって沢山いるよ」

「……そうだよね。ここにも沢山の虫がいるけど、外に出ればもっと沢山の虫がいるんだよね…」


カナトくんは元気なさそうに言った。表情も、いつもは向日葵みたいな笑みを浮かべているのに今日は曇っていて、とても心配になる。


「…カナトくん、外に出てみたいの? 私がお母さんに頼んできてあげようか?」


私はカナトくんの側に近寄ってしゃがむと、その元気の無さそうな顔を見た。するとカナトくんは私とは目を合わせようとせず、周りばかり見ている。


「でも……」

「私と一緒なら大丈夫だよ」

「名前……」


「まあ、無理には出さないよ」と言えば、カナトくんは申し訳なさそうに謝ってきた。「また今度連れてってね...!」と言われると、私は笑みを浮かべて頷いた。