「俺もペンギンになりたい……」


炎天下の中、水中を優雅に泳いでいるペンギンの水槽に張り付いている男主さんはとても滑稽で、僕は笑いながらそれを見ていた。すると男主さんの横で姉さんが心配そうにしていて、鞄から汗拭きタオルを出すと男主さんにそれを渡した。


「あ、あそこで休もう男主さん!」


姉さんが近くにあった日陰になっている椅子を指差すと、男主さんの背中を押してで強引に連れて行く。僕も一緒にそこに行って座ると、顔が真っ赤に火照っている男主さんを見た。姉さんから貰った冷たいタオルで首や汗を拭くと、小さな溜息をついて「あちーなー」と滅多に聞かなそうな口調で零した。


「…そういえば、あそこの売店でかき氷売ってたから食べようよ」


僕の言葉に姉さんが賛成すると、男主さんはポケットから財布を出して「よろしく……」とだけ言って渡してきた。味を聞くと姉さんはいちごと答えたが、男主さんは「リンタロウが食べたい物で良いよ…」と、よくわけのわからない返答が来た。僕はまあいいやと思って売店に行って注文を頼むと、それを待ちながら少し遠くにいた先程のペンギンの姿を見ていた。確かに、こんなに暑くて水が輝いて見えればペンギンになりたい気持ちも少しはわかるかもしれない。そんな事を思っていると注文した品がカウンターに出てきて、僕はお礼を言えばそれを器用に持って姉さん達の所に戻った。


「…あれ、男主さんは?」


姉さん達の所に戻ったはいいが、そこに男主さんの姿はなかった。すると姉さんは「トイレに行ったよ」と言い、僕は姉さんにいちごのかき氷を渡して男主さんのかき氷はテーブルの上に置くと、2人で食べ始めた。


「……美味しいね」

「…うん」


何だか距離のありそうな会話になってしまったが、消して僕達の仲が悪いわけではなく、お互いにこの現状のただ噛み締めていて上手く言葉にならなかっただけだった。姉さんと顔を見合わせればお互いに溢れ出る笑みが止まらなく、不抜けた表情になっていることがわかる。僕が「楽しいね」と言えば、姉さんは「そうだね」と返してくれた。


「ただいまー……あ、俺のかき氷は?」


トイレから帰ってきた男主さんを見れば、先程より顔の赤みが引いているのがわかる。僕はテーブルの上に置いたかき氷を見ると、持ってきた時より小さくなっているのに気付いた。


「早く食べないと溶けちゃうよ」


男主さんに財布を渡しながら言うと「ありがとう」と返され、かき氷を1口食べた男主さんは満面の笑みを浮かべた。