今日は新村の帰りが遅いという事で合鍵を使って新村の家の中にお邪魔すると、ミントが出迎えてくれた。最初の頃は新村みたいにツンツンし、餌をあげても食べてはくれなかったが、今では膝の上に乗ってくるぐらいの関係まで上り詰めた。俺は玄関でしゃがみこんでミントを撫でると、そのままリビングの方に消えて行ってしまった。俺もリビングに行こうと靴を脱ぐと、軽く揃えてリビングに向かった。
ミントの皿を拾い上げ、開封済みのキャットフードの中に入れて食べる分だけをすくい上げると、それを床に置いた。ミントはのそりと近付いて匂いを嗅ぐといつものように食べ始め、それを微笑ましく見ながら横にあった水用の皿に水を入れてやった。


「お前のご主人は今日遅いんだってさ」


するりと体を撫でるが、ミントは食べる事に夢中で何の興味も示さない。何だかミントも新村に似てきたなあなんて思っていると、ドアの鍵が開く音がした。ミントは餌を食べるのをやめるとすぐさま玄関に向かってしまい、俺も後を追うように玄関に向かった。


「なんだ、はえーじゃん」

「ああ」


新村は靴を脱いでミントを抱き上げると、俺には向けない顔で「ただいま」と囁く。本人は無意識らしいのでもう何も言わないが、少しだけ焼いているのは確かだ。こんな時だけ、ミントが羨ましいなと思う。俺は気付かれないように溜め息を付くと、新村の後に続いてリビングに戻った。


「お前帰ってきたしもう帰るわ。明日に掛けて課題が山積みだし」

「また溜め込んだのか? 馬鹿だな」

「ちっげーわ! 何かいろんな間違いが出て来てさ、修正しなちゃならなくなっちまって」


手ぶらで来たのでそのまま玄関に行って帰ろうとすると、新村に「待て」と呼び止められた。俺は何だと思って振り向くと、新村は上着を脱いでエプロンを付けていて、今から料理をしそうな雰囲気だった。


「どうせその調子じゃ晩飯は抜きだろう。呼び出した礼として飯でも食って行け」

「……なんかもっと他に言い方ねえのかよ…すげー上から目線じゃん…」

「……ならとっとと帰るんだな」

「んぇ! そんな事ない! 食べます食べます!」


俺は早足でリビングに戻ると、椅子に座って待っている振りをした。新村はそんな俺を見て鼻で笑うと、料理を作り始めた。折角新村が自ら用意すると言ってくれたので、食べない訳にはいかない。今日は何を食わせてくれるのかなあとワクワクしながら待っていると、餌を食べ終わったミントが俺の膝の上に乗って一休みをしてきた。俺はミントの座布団か!といつもは思う所だが、今日は気分が良いのでとことん座布団になって撫でてあげる事にした。