「あれ、苗字?」


コンビニでバッタリと会ったのは同じクラスの秋山隼人だった。制服姿でギターケースを背負っていて部活帰りだとわかる。私の姿は暖かさを重視した服装でオシャレの欠片もなく、思いを寄せる相手にこんな姿を見られてしまって何でこんな服装で来たのだろうとめちゃくちゃ後悔した。私は小さく挨拶を返せば秋山は「いつもと違くて分からなかった」と笑いながら言った。やめて! こんな私を見ないで!


「なんか親近感湧いたよ」


柔らかく笑う秋山はとても可愛く、さっきまで寒かったのが一瞬にして消し飛んでしまった。マフラーをして温めている首が暑く、汗で首に髪がへばりついているのがわかる。


「部活帰りなの?」

「いや、事務所に寄っててさ、今日は少し長引いちゃって」


事務所、そう言えば秋山くんはアイドルになった事を思い出した。ちょっと前までは恋のライバルも学校内だけだったのに全国規模になってしまって勝ち目が見えない。しかもアイドルとなれば彼女なんて作りたくても作れないだろう。秋山くんが輝いているのは嬉しいが、反面寂しくもあった。


「そうなんだ、お疲れ様」


今日コンビニで会ったことに運命を感じてしまうが、自分にただの偶然と言い聞かせる。言葉を交わせただけでも幸せだと思いながら「また学校で」と言って去ろうとすると、秋山くんが私を呼び止めるために少し大きな声を出した。


「……俺たち今度さ、ライブやるんだ」


そう言って差し出されたチケットを見ると、会場名と席が書いてあった。私はチケットと秋山くんを見比べていると、彼と目が合ったが逸らされてしまった。


「……良かったら、さ」


秋山くんの顔はみるみる赤くなっていき、私も釣られて顔が熱くなるのがわかる。
この公演のチケットを手に入れるために応募したりシリアルコードを手に入れるためにCDを買ったりしたが、どれも当たらなくて落ち込んだ。しょうがなく諦めていた所でまさか秋山くんに貰えるとは微塵も思ってなかったので、秋山くんに対してなのかチケットに対してなのかわからないがとても嬉しくてドキドキしていた。


「すごい嬉しい、絶対見に行く…!!」


受け取ってお礼を言うと、秋山くんは嬉しそうに笑った。お別れすると秋山くんは何も買わずにコンビニから出て行ったが、もしかしたらこのチケットを発券するために来たのかもしれない。お金は後で返そうと思いながら、私も何も買わずに帰ることにした。