今日発売した雑誌の涼が出ているページを綺麗に切り取ってファイリングしていると、ノックもせずに部屋の扉が開いた。私は驚きのあまりにファイルをとっさに隠したが、入ってきたのはお母さんだった。


「あらあら、名前はほんとに涼くんが好きね」


机の上に広がっていた雑誌を見たお母さんはニヤニヤしながら「お邪魔だったわね」と言って扉を閉めた。私は恥ずかしさがメーターを振り切って爆発してしまい悶えていると、「あ、そうそう」と扉の向こうからお母さんの声が聞こえた。


「涼くん来てるわよ」


言われて少しの間だけフリーズしていると、咄嗟に窓から玄関を見た。しかしそこには誰もいなく、お母さんに騙されたのだと思い文句を言おうと勢いよく扉を開けたら鈍い音とともに聞きなれた悲鳴が聞こえた。何だろうと見てみればそこにはオデコを抑えてしゃがみこんでる涼がいて、頭を打ち付ける勢いで土下座をしたら許してくれた。


「あ、待ってて!部屋片付けるから!」


あんな気持ち悪いファイルを見せるわけにはいかなく、ベッドの下に隠して雑誌は本棚に入れてざっと片付けると、涼を部屋に入れた。今日は涼が休みと聞いていたので会う約束をしていたが、まさか家に来るとは思わなかった。


「何で家来たの? 何も伝えてなかったよね?」

「え、時間も待ち合わせ場所も言わない時はいつも名前ちゃんの家に行くのだと……」


上着を脱ぎながら今までの記憶を引っ張りだそうとしている涼。確かに私は涼と違っていつでも暇だったので、涼の都合に合わせるようにとあえて時間と待ち合わせ場所を言わなかったことが多々あった。まさかそんな雑過ぎる合図みたいなものを未だに覚えていてくれていたとは、涼の優しさを改めて思い知らされた。


「メールしてくれれば良かったのに…」


馬鹿だなあなんて言えば、涼は困ったように笑った。折角来てもらったものの、やる事もやりたい事も無くてお母さんに持って来てもらったお菓子とジュースをひたすら飲み食いする。話すことないなあと思っていると、涼が近くの戸棚に興味を示し、近寄って見始めた。


「あ、これ買ってくれたんだ」


1枚のCDを出して私に見せてきて、身体中が一気に熱くなった。それは最近発売された涼の所属するグループの歌が入っているCDで、保存用と使う用で2枚ある。涼が来る時は必ず隠していたためバレてこなかったが、今日はいきなり来られて隠すのを忘れてしまったらしく、心の中で数分前の自分をボコボコにした。しかもその横には女装アイドル時代からのCDから現在までのがずらりと並んでいて、恥ずかしさのあまり気持ちが握手会前のファンになった。


「み、見ないでください……やめて……」

「……名前ちゃんは僕がアイドルになっても全く興味無さそうだったけど、こっそり応援してくれてたんだね」


嬉しそうにお礼を言ってくれた涼の顔はテレビの前では絶対出さないような顔をしていて、とても嬉しくなった。