M2Dを着けてゲームにログインすれば、見慣れてる景色が視界に広がった。
今日はクエストをやる気分でもレベル上げする気分でも無く、ただマク・アヌの黄昏色の光を浴びながら現実から目を背けたかった。
嫌な事があるとこうやってThe Worldの世界を歩き回っている。たとえ偽物であってもリアルにはこんな風景ないし、細かく作り込まれているので私が綺麗だと思えばそれでいい。
誰かと話をしたかったが、今の私には愚痴しか出てこなさそうなので連絡するのはやめた。


「あれ、名前じゃん!」


聞き覚えのある声がしたのでそちらを向けばシラバスがいた。いつもガスパーが隣にいるイメージだったが、今日は1人らしい。
いつも通り話しかけてくるシラバスに、私もいつも通りに返事をした。


「何してたの?」

「何にも。たまにはゲーム内でゆっくりしてみようかな、なんて」

「名前が珍しいねw」


シラバスが笑うと私も釣られて笑う。
普段の私はレベリングとアイテム探しでエリアにばかり行くので、確かに今の状況は珍しいんだと思う。
気晴らしにシラバスを誘ってアイテム探しに行こうかななんて思ったが、何だか自分勝手だと思ったので言うのを抑えた。


「実は名前が欲しがってたアイテムが出るエリア見つけたんだけどさ、よかったら行かない?」


少しだけ無言の時間が続いていたが、シラバスの方から口を開き始めると私はその話題食いついた。いつもならシラバスの手を引いて駆け出しそうな私だが、今日は歩いてカオスゲートに向かった。





「わあ!やったやった!ありがとうシラバス!!」


獣人像まで行ってアイテムを取ると、私は嬉しくて飛び上がった。正直、飛び上がるほどのものでは無いが、気分が落ち込んでたからかいつもより増して嬉しく感じた。


「……良かった、名前が元気になって」

「え?」


シラバスは安堵したように言った。
シラバスは最近は私が元気ないのを気にしていたらしく、今日偶然私を見掛けたのでいい機会だと思って誘ったらしい。
私はそれを聞き、何だか申し訳なく思った。私情のことで周りの人に心配させてしまうなんて。


「なんかごめん……私のせいで……」

「そんなことないよ、僕が好きでやってるだけだし!」

「…ありがとう、シラバス」


私は小さな声でお礼を言うと、シラバスは照れくさそうに笑った。
それからはマク・アヌに戻って解散したが、いつの間にか胸のモヤモヤはなくなっていて、シラバスとより一層仲良くなれた気がして嬉しく感じた。