「男主は何かいい案を思いついたか?」


ヒルがそう言うと、東郷先輩やユウの目がこちらを向く。僕は困ったように「ごめん、何も……」と言えば、余計ヒルの苛立ちを募らせてしまった。

昔の僕は確かに2人の頭脳役として立ち回っていたが、そんなのは昔の話だ。今ではもう2人の考えていることがわからないし、明らかに2人の方が頭は良い。
僕なんかに聞かなくたって2人の権力を行使すれば大鷹派なんてひねり潰せると思っていたが、実際はとても手こずっている。結局、ユウが大鷹先輩の学費を塞ぎ止めることにしてその場は収まったが、僕一人は腑に落ちずにいた。
その結果、大鷹派は大鷹先輩の学費を稼ぐために選挙活動をしないで働いているらしい。東郷派の皆が鼻で笑う中、僕はそんな仲間想いの強さを羨ましく思った。


「!高天原くんと野々宮くんの傍にいる…!」

「……苗字です」


大鷹派の所で話しかけるタイミングを伺っていたら、榊原先輩に気付かれてしまった。
赤場先輩や久我にスパイと決めつけられたが、大鷹先輩が「決めつけるのは良くない」と言って話を聞いてくれた。
僕は既に2人についていけなくなっていたこと、皆さんを羨ましく思ったことなどを話した。だからと言って大鷹派に入るつもりなんて無く、ただたんに胸の内を晴らしたかっただけだった。


「なんか、話を聞いて頂けて少しスッキリしました。ありがとうございます……」


深々と頭を下げると、「い、いいよ、頭なんか下げなくて」て言われた。


「もし嫌になったら、いつでも来いよ! みんな優しいからさ」


ニカッと笑う大鷹先輩に、僕も釣られて微笑んだ。
それと同時に、多分僕に寝返ることはしないだろうと思った。いろいろ話しているうちに心の整理がつき、どんな汚い手を使っても2人は掛け替えのない親友だと改めて思ったから。





「何処に行っていた、男主」

「ごめん、先生に呼び出されてた」


何も無かったような顔をして建物に戻って来れば、ヒルは少し不機嫌そうに言った。もし素直に言ってしまっていたら、たとえ僕でも洗脳されてしまうだろう。
するとヒルは特に気にしない様子で「そうか」と言った。