早く待ち合わせ場所に来てしまい、まだかまだかと待ちながら携帯の時間と睨めっこしていた。
今日は涼の女性用の下着を一緒に買いに行く約束をしている。男だけど女と偽ってアイドル活動を始めた涼に課せられた最初の試練らしく、その話を聞いた私が無理やり付き添っている。
涼は昔から女の子に間違われるほど可愛かったし、今も同性から男と認知されていても告白されてしまうほど可愛い。そんな涼の女性用の下着を買いに行けるのはかなり楽しみなので、とてもワクワクしている。
髪の毛を弄ったりスカートを直したりしてそわそわしていると、周りが何だかざわざわしていることに気付いた。私は何だろうと思いあたりを見回すと、緑のワンピースを纏ったスタイルの良い女性が歩いていた。誰かに似てるな、と思いながら見ていたら、その女性はこちらに向かって歩いてくる。よくよく見ればその女性の正体は涼であり、顔を真っ赤にして半泣き状態だった。


「ぎゃおおおおん! 名前ちゃん!!」


私を見た途端、涼が駆け寄って来た。
緑のワンピースに私がアイドルになった記念にあげたサンダルを履いていて、女の子しか見えなかった。気になったのであるはずのないを触ってみれば、パットだとわかる。


「いいいいいきなり何…!?」

「いやあ、胸があったから……」


ごめんごめん、と言うと、その場に集まった視線から逃れるように涼の手を引いて歩き出す。
女装をしただけでこんなに可愛くなるとは思わなかった。早く建物の中に入ろうと歩く足を早くした。
あまり高くないヒールだかまだ慣れてないのか歩き方がぎこちなく、普段より風通しが良すぎるのかスカートばっか触っている涼。膝ぐらいのスカートなので見えることなんて早々ない。


「そんな簡単にパンツなんか見えないから大丈夫だよ。もっと堂々と歩いて」

「う、うん……。名前ちゃんがいて良かった……1人じゃ心細かったよ……」


エスカレーターに乗る度そわそわする涼に少し呆れ始めていた所で下着売り場についた。私の後ろをついてくる涼は顔を真っ赤にしており、視線を泳がせながらついて来ている。


「ほら、激盛りパットだって。涼はこの辺りじゃない?」


手に取って見せると、まともに見ないまま返事をする涼。そんな涼を気にしながらワゴンの中を漁ると、見覚えのある柄の下着が出てきた。


「! 涼、これ買ったら? 私とお揃いだよ」

「!?」


ほら、と涼の目の前に差し出した下着は、水色地に白い水玉模様のシンプルな下着。涼はそれを見るとより顔を真っ赤にさせてしまい、「…うう…名前ちゃん……」と顔を手で覆って呟く。サラリと私が持っている下着を言ってしまったが、涼だし、と思って全く後悔はしていない。
涼がつけるなら水色より緑がいいよな、と思って探してみるが、なかなか見当たらない。私の中で涼は絶対緑、と決まっているのでお揃いの下着はあきらめた。


「で、どれがいいの?」

「もう、名前ちゃんが決めてください……」


僕はもう……!と何かを言いかけたところで涼は走って何処かに逃げてしまった。私は呆気にとられ、なんかお節介しちゃったかな、と少し落ち込む。
せめてものために可愛い下着を選んであげようとまたワゴンの中を漁り始めた。





「名前ちゃんの下着……うう…僕の馬鹿馬鹿馬鹿!!」


頭を冷やすためにデパートの外まできたが、まだ熱が収まらない。
お揃いと言われて目の前に出された下着は名前ちゃんがいかに着てそうなもので、まだ視界と脳裏に焼き付いている。
こんな状態では名前ちゃんとまともに買い物が出来るわけもなく、僕は大きなため息をついて壁際でしゃがみ込んだ。