日本に帰ってきた成歩堂くんの話を聞いて私は驚くこともせず、ただ心を落ち着かせるために深呼吸をした。しかし、何回もそれを繰り返したが私は全然落ち着かなかった。
嬉しさと安堵で今まで必死に抑えていた感情が制御できなくなり、涙がどんどん溢れてくる。お洒落な喫茶店で恥を捨てて嗚咽をもらす私に成歩堂くんはとても慌てていた。
そんな成歩堂くんに申し訳なくなって涙を止めようとして落ち着こうとするが、話してもらった彼のことを考えてしまい、更に涙が溢れてくる。


「……ハンカチをどうぞ」


目の前に差し出されたハンカチを受け取ると、それで涙を拭く。暫くしてようやく涙がおさまると、成歩堂くんに謝ってお礼を言った


「いえ……。名前さんが落ち着いて何よりです」


心なしか嬉しそうに言う成歩堂くんに私は微笑み返した。
貸してもらったハンカチは涙でとても濡れていて、申し訳なく思った。


「亜双義もすまないと言ってました」

「……すまないではすみませんよね、本当に。でも、今はそれで許してしまう自分がいます…」


一真が行きの船の中で亡くなったと聞かされてから、私の世界は一気に灰色になった。ご飯は喉を通らなく何も手付かずにいて、毎日していたことは一真のお墓に出向くことだけだった。
そんな時が止まったような日々を過ごしていたが、一真が生きていたとわかった途端に私の体の底から生きる気力が溢れんばかりに湧いてきた。
一真動いている姿を今すぐにでも見たいので有り金叩いて今すぐに英国に向かいたい所だが、その気持ちを必死に抑える。
すると、成歩堂くんは写真を取り出して私に見せてきた。そこには英国で撮ったであろう写真で、その中に少し髪の毛が伸びて白い服をまとっている一真の姿があった。


「……私はこの写真を見れただけでも生きていけるよ。本当にありがとう、成歩堂くん」


必死に涙をこらえながら私は笑顔で言った。
そんな私に、成歩堂くんは「良かったです」と微笑み返してくれた。