教室の窓から外を見れば、さっきまで晴れていた空は雲で覆われて雨が降り出していた。
時間が経つにつれて勢いが激しくなり、稀に聞く激しい雨音が教室に響く。
朝からとても晴れていたし、天気予報でも雨が降ると言っていなかったので折りたたみ傘すら持って来ていなかった。
ずぶ濡れの中帰ることになりそうだ、と思いながら下駄箱まで向かって靴に履き替える。
外に出れば、強い風と風のせいで斜めに降る雨を見て少しうんざりした。こんな中帰らなくちゃいけないのか……。
しょうがないと思い鞄を頭の上に乗せて走り出そうとした所、誰かに名前を呼ばれた。


「苗字くん、傘無いの?」


そこにいたのはルーム長の本田だった。
何時もは隣に副ルーム長の山羽がいるはずだが、今日はなぜか姿が見当たらない。
本田の問に「ああ」と答えれば、本田は傘と俺を見比べた。


「良かったら一緒に入る…?」

「…本田の家って」

「あっちだけど……」


本田の指した方向は俺と家の方向とほぼ一緒だった。
まあ、ずぶ濡れで帰るよりかは良いかなと思い、俺は遠慮なく入れさせてもらった。
本田とはあまり接点はなく、今日喋ったのも久々だった。いつも山羽と一緒にいるし、話すこともろくにない。嫌っているわけじゃないが、好きって言うほどの仲でも無かった。


「今日山羽はいないんだな」


無言でただ歩くのは少し気まずかったので話を切り出してみた。
傘を強く打ち付ける雨音で聞こえたかどうかはわからないが、本田はこちらを見た。


「キーチは用があるって先に帰っちゃったんだ」


相槌を打てば、そこて会話が途絶えてしまった。
他に何か話題にすることは無いだろうか。考えてみたが中々思い浮かばずに黙々と歩く時間だけが続く。
すると前から車が水飛沫を上げながら来た。もしやと思ったが、そう思った頃には既に俺に水がかかっていた。


「大丈夫……?」

「……最悪…冷たい…」


左足はモロにかかり、触ると絞ったら水が出てきそうなぐらい濡れていた。風がいつもより冷たいので一気に寒くなった。


「本田は大丈夫か?」

「あ、うん。大丈夫だけど……」


本田は俺を心配そうに見てくるが、俺は「気にするな」と笑って見せた。
スボンを気にしながら歩いていると、本田は立ち止まった。俺はどうしたのかと顔をあげれば、そこには豪邸を感じさせるような和風な門があった。


「ここが僕の家なんだ」


思わず変な声を上げそうになった。
ルーム長やっている奴らは大体金持ちと思っていたが、本田も金持ちだったのか……。
どうやらタオルを貸してくれるらしく、本田のあとを追って中に入ると綺麗な庭が広がっていて、少し先には大きな屋敷が見えた。
家の前まで行って「中で待ってて」と言われたが、頑なに拒んで外で待つことにした。
少しの間外で待っていると雨が先程よりかは弱くなり、いつの間にか太陽が出ていた。
しかし太陽が出た所で雨は止みそうにないため、晴れているのに雨が降っているというちぐはぐな天気となっていた。


「天気雨だね」


タオルを片手に持ってきた本田は空を見上げながら言った。
本田からタオルを受け取ると、軽く腕や顔を拭いて返した。一番濡れてるのはズボンだが、ここで脱いで絞るわけにも行かないので家まで我慢することにした。
雨音が比較的静かになっていたので再び空を見れば、そこには大きな虹がかかっていた。
今まで見たことのある虹は一部分が多かったが、その空にかかっていたのは大きな半円形だった。
虹の根元が両方ハッキリ見えて少し感動していると、本田も俺と一緒で虹に見とれていた。


「大きな虹だね…!」

「すげーな…こんなにデカいの初めてだ……」


今日は傘を忘れたり車に水をかけられたりと不幸な日かと思っていたが、綺麗な虹を見てそんなのはどうでも良くなった。
そしてこれをきっかけに少しだけ本田と仲良くなれた気がした。