朝、いつもと同じ時間に起きて、いつもと同じ時間にご飯を食べて、いつもと同じ時間に今日の予定を立てようとした時、前田が僕の部屋を訪れた。


「主君、せび、聞いていただきたいことがございます」


正座で深々と頭を下げる前田。
いつもの可愛らしい雰囲気を裏切るような態度で、僕は少し困惑しながら「どうしたの?」と聞いた。
それは、修行に行きたいと言う話だった。
前田は今よりも強くなり、僕を守れるぐらいの力が欲しいらしい。


「今でも充分前田は強い、僕だって本丸に来てからは傷一つ負ったことは無いだろう? そんな無理しなくても……」

「無理はしておりません。……主君は、僕が強くなる事が嬉しくないのですか?」


少し悲しげな表情でいう前田に、僕は言葉が詰まってしまった。
そう言われると、確かに僕の心のどこかであまり強くなって欲しくないと言う思いがあった。
強くなればいろんな合戦場が行ける反面怪我をする事が多くなると思うし、共に入れる時間も今より少なくなってしまう。
勿論、刀剣男士を生み出した理由が歴史修正主義者と戦うことと言うのはわかっている。
しかし彼らを人間の体にする事で、人間と同じ対応をして愛着が湧いてしまうのは分かっていたはずた。
何故彼らを人の形にして、感情を、痛みを感じさせてしまったのだろうか。僕はこの時初めて政府は酷いと思った。


「……嬉しいよ。前田が夜戦以外の場所でも戦えるぐらい強くなったら、とても嬉しい……」


僕は前田に「少し待ってて」と言うと、部屋を出てある物を取りに行った。
それを取りに行く間に気持ちを決めようと思って迷ってたが、部屋の前についた今もまだ迷っていた。
しかし、それはもう既に手の中にあった。


「……修行道具一式だよ」

「! 良いのですか…?」

「だって、前田が決めたことだろう? 前田が好きだからこそ、応援するよ」


そう言った自分の胸の内は酷く感情が入り乱れていて、今どんな顔をしているかわからなかった。
応援する、と言ったが僕の心は全然納得していない。しかしそれは本心でもあった。


「ありがとうございます! 必ず、主君のご期待に添えて強くなって来て参ります!」


修行道具一式を受け取り、やる気に満ち溢れている前田を見て、僕は彼の頭をぽんぽんと優しく撫でた。