トップスの親の間で生まれた俺だったが、親は俺を「無愛想な可愛くない子」と言ってコモンズのスラム街へと捨てた。
当時ヘッドフォンとCDプレイヤーだけしか手持ちのなかった俺は路地裏の隅でひたすら音楽を聴いていた。
そこに俺と同い年ぐらいの男の子が来て、「俺のいる孤児院に来いよ」と半ば強引に手を引かれ連れられていった。それが俺の新たな人生の始まりだった。


「おーい、男主」


ユーゴに目の前でそう口を動かせられ、俺は反応する。
顔を上げて唇の動きを見れば「気分転換にドライブしようぜ」とのことだった。
Dホイールに乗ると風の音で音楽があまり聞こえなるのであまり好きではない。しかしユーゴからのお誘いなのでしぶしぶ行くことにした。
ヘッドフォンではヘルメットはかぶれないのでイヤフォンにする。ヘッドフォンからイヤフォンに変える時ぐらいしか外さない。
準備が出来て外に出ればヘルメットを渡され、俺はそれを被りユーゴのDホイールに乗った。
Dホイールに乗ってる時はユーゴの声は聞こえない。 
何かを言ってるって事はわかるぐらいで、正直のところユーゴの声すらまともに聞いたことがない。読唇術ができる俺にとって人の声を聞きながら話を聞くのは蛇足に過ぎなかったのだ。
Dホイールが止まり、ユーゴが降りる。俺も一緒に降りて柵の向こうを見ればそこには赤い夕日と地平線が見える海だった。
丁度今聴いてる音楽と風景がマッチして、俺は片方のイヤフォンを外す。片耳に音楽、片耳に海の音というのは初めての体験だった。


「お前がイヤフォン外すなんて珍しいな!」


隣で大声でユーゴが言う。
俺はその時初めてまともにユーゴの声を初めて聞いた。 


「お前って、そんな声してたんだな」


久々に笑った。