高天原蒜山と野々宮裕次郎と僕はとても仲が良かった。
ヒルとユウは洗脳治療されて以来まともに話していないらしいが、僕はよく2人にそれぞれ会っていた。
僕も2人と一緒にマヨネーズ事件に関わっていて同類だと思われて洗脳されそうになったが、人前ではいい子を演じていたのが良かったのか「無理やり巻き込まれた」として処理された。
実際は僕から進んで混ぜて貰っていたので二人を裏切ってしまった感じがして申し訳なくなったが、洗脳治療の効果を見て素直に打ち明けなくてよかったと安堵した。
二人の親父さん達には「男主くんと居ればいい影響を受けるかもしれない」とかなり信頼されていて、ユウの親父さんからは異変があった時の報告も兼ねて今も仲良くさせてもらっている。
ヒルの方は時期教祖と言われてるからだろうか成長するにつれてどんどん近寄りがたくなり、昔よりは距離を置いているがそれなり言葉を交わす仲であった。
今年の春で僕達は高校生、僕はやっとこの年が来たかと胸を躍らせていた。
2人を失ったあの日からずっとこの時を待ち望んでいたのだから。


生徒会長戦、僕は特に推している2年生もいなかったのでユウに誘われて大鷹派に入った。
ヒルのいる東郷派でも良かったが、東郷菊馬からあまりいい噂は聞かないため何となくで決めた。
しかし、文化祭でユウが尊敬していたであろう大鷹先輩を殴り、ユウは東郷派に行くと宣言して俺も手を引かれるように東郷先輩達の方に寝返った。
正直詳しい理由は分からないが、ユウがヒルがいる所に行くなんていいチャンスかも知れないと思った。

そして生徒会長候補者発表の日、ユウと東郷先輩のところに行くと森園会長を脅したと言う話が聞こえた。


「そう言う細工をしたのか」


ユウが二人の会話に入ると、2人は驚いた様子だった。
ユウは東郷先輩に会長候補当選を祝うと、ヒルの方を向いて言った。


「よう、お前は昔からそういう奴だったよな。自分の思い通りにいかないと気が済まないんだ」

「なんだよ、お前の方こそ誠実ぶりやがって」


ユウの言葉にヒルが言い返すと、今にも喧嘩しそうな雰囲気で東郷先輩は2人を宥めようとして慌てていた。
しかし2人の表情は何処か嬉しそうに見え、僕はその表情を見て確信した。
彼らが戻ってきた、と。


「まさか…お前達がこっちに来てくれるとはな…。よう、ユウ、男主」

「よう、ヒル」


ヒルに名前を呼ばれたが僕は得に返さなかった。
最近のユウの変わりように洗脳が少しずつ解けかかっているを感じ、まだかまだかと待ち望んていたが、まさか今なんて思いもしなかった。
ヒルと目が合えば、僕は微笑み返した。


「お前らってそう言う仲だったのか?」


困惑している東郷先輩にヒルは昔の話を少しすると、メガネを取って左のこめかみから頭部を覆っていた布を剥がした。
そこからは綺麗に揃えられた黒髪が出てきて、東郷先輩方はとても驚いた様子だった。


「坊主頭に眼鏡はもう飽きた! もういいよな、吉祥」

「ええ、聖人としてのアピールはもう充分かと」

「よし決めた! 俺はもうこれで行く!」


ヒルの髪型に賛成するユウ、俺は大きく頷いた。
するとヒルは整っていたユウの髪の毛をボサボサにし、昔のユウみたいな髪型にさせた。
その光景はまるで昔の2人を見ているようで、僕の胸はとても熱くなった。


「今のお前と俺が手を組めば世界を手に入れられるな!」


ヒルが言うと、ユウは口を開いた。
正々堂々と戦いたいと思っていたが、それだけでは手に入れられないものもあると気づいてしまったこと。それでコネや全ての力を使って力を手に入れたいこと。
ヒルはユウの話を聞くとユウに契約を持ちかけた。
ユウを海帝の生徒会長にし、首相になる時は票集めや資金援助をする。そのかわりに天照霊波救世教を日本の国教にする事。
ユウはヒルの条件を飲み、契約が成立した。
すると東郷先輩は2人に圧倒され、会長候補という今回の主役のはずなのに恐縮した様子で2人の会話に入った。


「あ…あの…盛り上がってるところすみませんが…俺もよろしく」

「もちろんお前を生徒会長にする前提の話さ! 黙って俺たちについて来い!」


肩身の狭そうな東郷先輩を見て哀れだと思った。
このコンビのカリスマ性に逆らえるやつはいない、だから僕はこの2人に惹かれたんだよ。


「もちろん男主も協力してくれるよな? お前の頭脳は俺達には欠かせない武器だ、それに俺達といれば何でも手にすることが出来る! お前も欲しいものがあるなら何でも手に入る!」


ヒルがこちらを向いて言った。
二人を見れば有無を言わせそうに無いオーラが漂っていて、圧倒された。
昔から案を立てるのがヒルで、行動するのがユウだった。僕は策を立てるのが得意で、僕の策で二人は動いていた。
そう、"俺"は唯一この2人を動かせる人間なんだ。この2人を巧みに操れば"俺"はどんな地位にでも付ける。
"俺"の欲しかった有能な駒は、やっと復活したのだ。


「てっきりハブられるかと思ってたけど、そう言ってくれちゃあ協力するしかないよね」

「まさか。3人揃って皇国復活だろ!」


ユウに肩を捕まれ、僕は「そうだね」と笑った。