私は夏休みになるたび仲の良い友人に旅行に行くと嘘をついて髪の毛を染めていた。 耳には合わせて10個以上の穴が開いていて、何箇所か地味に塞がってしまったがムリやりピアスを刺して開けた。 少し血は出るが、ほんのちょっぴりなので全く気にしない。
相模なんて頭の良い学校に入ったが、根はただのヤンキーだ。 煙草も酒もやってはみたが煙草は煙いし酒は不味く、どれも合わなくて一度きりでやめた。 高校に入ってからハメを外しまくったが意外にバレなく、いやバレないように徹底的にしているので疑われたことすらない。 メイクをガッツリして日サロで肌を焼いたり、パーマをかけたりしていつもの私からかけ離れている身なりを心掛けている。 後は圧倒的知り合いと合わないので運も味方についていた。 しかし友人とワイワイ夏休みを満喫したり出来なく、唯一の楽しみは日頃稼いだ金でバリバリオシャレをすることだけだった。
バイト帰り、給料日だったためショッピングモールに寄り道をした。 お目当てはコルセット風の花柄ベアワンピで、夏の初めにこれを見掛けてから絶対買うと決めていた。 少し高いが日頃のご褒美だと思えば安いと思い、ウキウキとスキップしそうになるのを堪えながら店に向かった。
店に行って美人なお姉さんに声を掛ければ「この前見た時は黒髪清楚系だったのにまじパネェすね!」と言われて後ろから取り置きして貰ってたお目当ての物を出して貰った。 お姉さんも初め見た時は髪の毛茶髪だった気がするんですけど、チラチラ店の前を通る度髪の毛の色変わってた気するんですけど? カメレオンか何かですかね?? そして商品を受け取って店を出る時に「髪染めンの繰り返してるとカラフルになるから気を付けてくださいネ〜」と言われて出てきた。 お姉さんの髪の毛の見ると何故あんな事を言ってきたのか納得する。経験者は語る、って奴だな。 あの店員さん面白いので今度からあそこもお気に入りリストに入れようと思った。
目的は達成したし他に用事もないので帰ろうとしたら、目の前に同じ高校の男子の群れがいることに気が付いた。 黒いジャージにスポーツバッグ、背中には東道大相模と書いてある。 運動部に知り合いはいねえな、と思って堂々と横を通り過ぎたが、同じクラスのヤツや知っている顔が数名いた。 まあろくに関わったこともないので特に心配せず、ショッピングモールを出る前に何となくゲーセンに寄った。 クレーンゲームの品を見ながらぐるりと回っていると、大きなシモナンのぬいぐるみがあった。 枕にできそうなぐらいの大きな顔のやつでシモナン好きな私にとっては欲しくてたまらなく、小銭を確認すれば400円入っていたので試しにやってみようかなと100円入れた。
結局400円全部使ったが1ミリも浮かなかったし掴めなくて自分のゲームの下手さに泣きたくなった。 崩せば金はあるがクレーンゲームなんて取れるかわかんないゲームに金かけるのば馬鹿らしく思い、私は大きなシモナンを見てため息をついて帰ろうとした。
「オネーサンこれ欲しいの?」
声を掛けてきたのは黒いジャージにスポーツバッグを肩から下げてる男二人。明らかに先程の相模の奴らだった。 しかも見たことある顔で、ラグビー部の御所染と安達原だった。 御所染は私の返事も聞かずにクレーンゲームに金を入れたのでシモナンを1発で取ってくれるかと思いきや掠りもしなかった。
「カッコつけてこのザマかよ!」
「今のは許容範囲だから」
安達原が笑う中御所染はまた金を入れた。 この2人は私だと気付いていない、ってか私の存在も知らないだろう。 ま、取ってくれるならラッキー、と思ってただただ見ていた。 その後御所染は3回ぐらい金を入れて取ってくれ、500円で取れるなんて凄いなあと感心しながら渡されたシモナンを受け取った。
「俺にもシモナンよろしく」
安達原が御所染の肩をポンと叩けば、「自分でやれ」と安達原の手を払う御所染。 そう言えば安達原のスクバや、今肩から下げているスポーツバッグに可愛いキーホルダーがついていたような気がした。 スポーツバッグをチラッと見ればシモナンのキーホルダーが付いていて、少し目を疑った。 は? おま嘘でしょ。
「じゃ、オネーサンまたね」
御所染は不機嫌そうな安達原を連れて去り際に笑顔で私に手を振った。 何故「またね」なのか少し疑問に思ったが、その時は深く考えはしなかった。 しかし、先程まで涼しく感じたゲーセン内が寒く感じた。
|