「ラグビー楽しいか?」


ズルズルと中身が空のコップに刺さるストローを吸いながら貴船の様子を伺った。
貴船は楽しいよと言い、俺はそれを聞いて安堵した。

貴船は中学の時のサッカー部のチームメイトだ。
1年の時は同じクラスだったがろくに言葉を交わしたことがなく、逆におどおどした性格に腹を立てていた。
しかし貴船の隠れた才能、と言うかプレーを見て俺は貴船を見直した。
何故こんなプレーを出来るのに目立たないのかと考えたか、やはりそれは貴船の内気性格や行動にあり、勿体ないなと思いながらも他の皆がそれを気付かないことに優越感を覚えた。
それからは貴船に率先して声を掛け、仲良くなった。
俺は一方的に親友と思っていて、今もこうしてファミレスでのんきに一緒に飯を食っている。
貴船がサッカーを辞めてしまったのは少し寂しいが、今でもたまにボールに触ると聞いて今でもサッカーが好きなことがわかって良かった。


「貴船が楽しそうで何よりだよ」


中学の頃の貴船はいつも他人の顔色を伺っては人に合わせてばっかで楽しそうにサッカーをする姿を滅多に見なかった。
いや、試合に勝ったり点を入れたりした時は一緒になって喜んだが、2人の時で見せる笑顔より硬かった気がする。
俺はピザを一切れ取り、伸びるチーズを切り離して一口食べた。


「俺もラグビーやろうかなー…なんてね」


なははと笑う。
すると貴船は驚き、食べる手を止めた。


「……苗字くんのプレー好きだからやめて欲しくない、な……」


照れてどんどん語尾が小さくなる貴船。
その顔はふにゃ、と気が抜けるような表情で、俺は貴船に釣られて顔が赤くなってしまい衝動的に貴船の頭を1発殴った。
貴船が痛いと嘆く中、俺は照れを隠すかのように空のコップに刺さるストローを吸った。