親指の腹を包丁で切ってしまった。 料理をする際では怪我をしなさそうな場所だが、料理の最中ではなく包丁の刃を洗っている際に切ってしまった。 まだ洗い物が残っていたしさほど痛くもないので洗い物を続けていたが、持ってるスポンジに血が染みついたり滴り落ちたり、傷口に染みたりして切れた時よりも痛く感じてきた。 私は洗い物をやめて絆創膏を貼ろうと探したが、そもそも家に絆創膏などあっただろうかと辺りを見回した。 そうしてる間に指から血は流れ出ており、指がじんじんするので傷口を見たところ手が真っ赤になっていた。 私はうわ、と思いながら血を水で洗い流し、親指を握りしめる。 こんなので血が止まらないのは分かっているが、痛さを紛らわすために握りしめた。
「うわっ」
リビングに来た十代は私の血塗れの手を見て驚いた。 手は両手が真っ赤になっていて、床にも血が垂れていた。 十代はティッシュを何枚か取り数枚を私の手に持たせると、残りの数枚で床に落ちた血を拭いてくれた。
「お前大丈夫か?」
私は大丈夫のつもりだが、十代のした一連の流れをただぼーっと見ていたので大丈夫じゃ無いかもしれない。 私は曖昧な返事をすると十代はいつもよりも心配してくれ、「後は俺がやるよ」と残りの洗い物をやってくれた。 珍しいこともあるんだな、と思いながら私はソファーに座って血に染まっていくティッシュを眺めていた。 興味本位で傷口を舐めてみたが、特にどうと言う味はしなかった。 血は鉄みたいな匂いがするが、鉄みたいな味はしない。 鉄分の味なんて聞いたことがあったが、大体鉄分の味なんて知らない。 私は大きくため息をつき、親指を再び握った。
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