学校では女子たちが持って来てはいけないであろう手作りチョコを先生たちの目を盗んで交換し合っていた。
どうせ俺には縁もゆかりも無い話だろうと思い気には止めなかったが、辺りからチョコの匂いが微かにしていつも以上にお腹が鳴った。
空腹と戦いながら迎えたお昼休み、自分の席でユーゴと一緒に弁当を広げた途端隣のクラスの女子に呼び出しをくらった。
何事かと思い教室のドアの近くに行くと、洒落た紙袋を押し付けられるかのように渡され、女子はそのまんま走って行ってしまった。
紙袋の中は透明の袋に入った手作り感満載のクッキーらしき物と、手紙が入っていた。
周りに居た奴らが「ヒュー」と冷やかして来たのが少し恥ずかしくなり、俺は「うるせ!!」と言って自分の席に戻った。


「チョコか?」

「多分クッキー」


中に入っている手紙を取り出し、何が書いてあるんだろうとドキドキしながら読み始めた。
「下駄箱で待っててください」とか書かれてたらどうしよう……、と期待したがそんな期待は裏切られた。
文の内容は俺のことが好きとかそんなんじゃなく「ユーゴくんと仲良く食べてください」とだけ書いてあった。
他にも何か書いてないのかと手紙の裏を見たり何度も読み返したりしたが、何も変わらなかった。
もしかしたらユーゴ宛のチョコだったのでは……? そう思ったら高ぶってた気持ちが一気に覚めてしまった。


「……ユーゴと一緒に食えだって」

「え、マジ!? ラッキー!」


先に弁当を食い終わったユーゴは目を輝かせてそう言うと、勝手に紙袋からクッキーを取り出して食べ始めた。
俺は弁当を食べ始めたばっかなので「残しておけよな」と言った。
でもユーゴのことだから全部食べてしまうかもしれない……、まあいいか。
そう思いながら弁当を食べ進めた。


「あーん」

「あ? うっ」


口の中にご飯があるにも関わらず、ユーゴに口にクッキーを押し込まれた。
ご飯とクッキーがマッチングした味はイマイチで、昔親にいやいや食べさせられたご飯にきな粉をかけたような味がした。
俺は頑張って飲み込むと、ユーゴに「ばかやろ」と殴るふりをして飲み物を飲んだ。
目の前にあるクッキーが入っている袋を見ると、まだ半分残っていて少し驚いた。


「全部食べられるかと思ったのに残してくれたのか」

「だってこれは男主がもらったやつだしな」

「あー……全部食っていいよ」

「もう少し男主も食えよ」


ユーゴは一枚ずつ俺の口にクッキーを入れてきた。
どんどん口の中にクッキーが入ってきて、口の中がいっぱいになってもまだ入れてきそうなユーゴにストップをかけた。


「残りは食ってやるよ! 案外美味いしな〜」


クッキーの袋の中には残り数枚しかなかった。