バレンタインの日になると辺りはリア充とチョコの匂いで溢れた。
俺はこのイベントが苦手なためなるべく部屋から出ないようにしているが、俺にチョコを渡そうと部屋まで訪ねてくる女子生徒が何人かいる。
正直迷惑だが貰えるだけ有難いので受け取ると、猿みたいにキーキー騒ぎながら帰っていく女子がいて口角が少し引きつった。
今回もたくさんのチョコを貰い、テーブルの上にはチョコが山積みになっていた。
俺は甘いものが苦手なので冴えないオベリスクフォースの奴らにでもお裾分けするか、とチョコを紙袋の中に入れてドアに手をかけると、ドアが勝手に開いた。


「…どこに行くつもり?」


ドアを開けたのはユーリだった。
普段通りに見えたが、眉間に少しシワが寄っているのがわかった。
ユーリは俺の手にある紙袋を見ると、眉間のシワを濃くさせて俺を鋭い目付きで見た。


「何それ、貰ったの?」


ユーリは俺から紙袋を奪い取ると中に入っている綺麗に包装された箱や袋を汚物を触るかのように扱い、わざとらしく床に全部ぶちまけた。
それを中の物がぶちまける程まで踏みつけ、テーブルの上にある残りも全て床に落としては一つ残らず踏み荒らした。
俺はそんな光景に呆気に取られてしまい、止めることを忘れていた。


「食べてないよね?」


気が済んだのか、踏むのをやめて俺の目を見て聞いてくるユーリ。
ユーリの眼差しは先程よりも刺されそうなぐらい鋭く、怖くて鳥肌が立つほどだった。
俺は食べてないよと素直に言えば、ユーリはいつもみたいに「そう」と言った。