東条さんが好きなものを作ってくれると聞いて僕はハンバーグを作って欲しいと言った。
肉なら何でも好きだがハンバーグは格別に好きで、中にチーズが入っているやつが特に好きだ。
東条さんはどんなハンバーグを作ってくれるのかとワクワクしながら晩御飯の時間まで暇を潰した。


「お待たせ、苗字くん」


晩御飯の時間になり食堂で椅子に座って待っていると、東条さんがワゴンを押して現れた。
目の前に蓋がされている皿が置かれ、蓋が開くとハンバーグの香りが一気にしてお腹が鳴った。
肉の部分が殆ど黄色い何かに覆われていて、それがチーズとわかると口の中の唾液が一気に分泌された。
いただきます、と言って一口食べれば、今まで味わったことのない美味しさで顔が綻んだ。


「おぬし、ハムスターみたいになっておろう……」

「めっちゃ美味しい……幸せ……」


周りが普通な食事の中1人で豪華な物を食べていると、「へぇ」と声がした。
その声の主は王馬で、いつの間にか僕の左側に立っていた。


「美味しそうだね、苗字ちゃん」


王馬はいつも見たいに陽気に話しかけてきた。
でもその声は冷めていて何処か刺があり、やられるかもと思った。
するとその予感は的中し、王馬はわざとらしくハンバーグの乗った皿を床に落とした。
皿の割る音で辺りはシーンと静まり返り、僕は王馬の顔だけを見ていた。


「ごめーん。手が引っ掛かっちゃった」


その顔に謝る気はサラサラなく、僕は彼の気に触ったことをしちゃったかな、と思いながら床に散らばった皿の破片とハンバーグだった物を集める。


「片付けは私がやるわ、苗字くんは座ってて」

「良いです東条さん。これは俺がやった事なので」


東条さんは少し困った顔を見せた。
あちゃー早く片付けないと、と思って早く片付けようとするが、僕がちんたら遅いせいか東条さんは手伝ってくれる。
また皆の空気を壊してしまったな、しかも東条さんに手間を取らせてしまった。
僕は皆の視線で射抜かれる心臓を苦しくさせながら片付けを終えてその場を去った