一騎の家に晩飯を食べに来た。正直、飯をまともに食わない俺に対して一騎が俺を連行した、と言ったほうが合っている。
家に入れば小さい総士と史彦さんがいて、テーブルの上には既に料理が並べられていた。
史彦さんと総士の間に座り、正面に一騎がいる形になり、これは正面にいる一騎にちゃんと食べているかと監視されるポジションだと思い、少し鳥肌が立った。
皆がそれぞれ手を合わせて挨拶をし、ご飯を食べ始める。俺も同じようにし、ご飯を食べ始めた。


「男主、いっぱい食べてね!」


総士に笑顔いっぱいで言われ、俺は笑顔で返した。正面にいる一騎を見れば目が合い、一騎からも微笑みを向けられた。それでさっきの総士は一騎からの差し金だとわかり、一騎には勝てないなと思ってご飯を黙々と食べ続けた。久々に腹いっぱい食べ、久々に満足感を得た。
お腹いっぱい食べることで前は幸せを感じたが、今は何かが足りなくて十分な幸せを得られなくなってしまった。原因はわかっているがそれを明確にしてしまえば今の自分が崩れてしまう気がするので、そのことに関してはとある日を境に考えないようにした。美味しいタダ飯も食えたしもうちょっとしたら帰ろうと思い、居間で壁にもたれて胃を休めようとした。


「男主、遊んで!」


髪の毛を一騎と同じように一つ縛りにし、目を輝かせながら俺に言う総士。お腹いっぱいで動けない俺は指で×を作った。


「えー……」


目の前に座り込む総士。


「うーん」


悩んでいると、総士が俺の足の間に座ってきて、総士の後頭部が俺の顔の近くに来た。髪の毛から漂う匂いは一騎と同じ匂いがし、真壁家に馴染んでいる証拠だった。
俺はそのまま総士を抱きしめると、総士は少し驚いたのか体をビクつかせた。


「……どうしたの…?」

「……やること思い出したから帰るわ。またな、総士」


立ち上がって総士の頭を撫でる。その時にあえて総士の顔は見なかった。
玄関に行く前に、一騎と史彦さんに挨拶をし、家から出る前にお見送りをしてくれた総士に軽くてを振れば、総士は笑顔で振り返してくれた。