一騎が二ヒトの中から見つかった総士を育て始めてから3年が過ぎた。
僕は幼き頃に両親を亡くしていて、今まではアルヴィスに住んでいたが海神島に来てから一軒家を与えられた。僕一人で一軒家を占領するのはとても申し訳なく感じ、西尾さんに小さい家でいいと伝えたが却下されてしまった。しょうがなくそこに住んでいるが、一人で広い空間にいると埋まらない心の隙間が目に見えるように感じた。
今日は一騎が家にいないため僕が総士の世話をすることになった。子供と触れ合うのが得意じゃない僕はただ黙って見守ろうと思った。子供、というよりも今の総士と言う方が合ってるが、それでは今の総士の存在を否定してしまう気がした。


「男主、お腹空いた」


目の前で絵本を読んでいた総士が絵本を置いて僕に言った。僕は「お昼にしようか」と言って作り置きしてたおかずを電子レンジで温め、皿に盛り付ける。総士の方を見れば読み散らかってた絵本を片付けて、テーブルの前でご飯が来るのを待っていた。
テーブルに皿を並べようとすると総士が手伝ってくれ、それが終われば一緒に手を合わせてご飯を食べ始めた。


「男主のご飯も美味しい!」

「…ありがとう」


総士の基準は一騎なんだろうな、と思いながら笑顔で返した。僕の料理は一騎から習ったものなので、総士に一騎と味付けが似てるかどうか聞いてみたかったが、うまく言葉に出なかった。
食後、流しで皿を洗ってる途中で総士が「海へ行きたい」と言ったので行くことにした。総士に来るときに被ってきた麦わら帽子を被せ、海辺に向かう。向かう途中で総士に手を繋がれ、総士を見れば純粋な笑顔を向けられて少し視界が歪んだ。
海辺に着き、総士が波打ち際で遊ぶ中僕は砂浜で座って総士を見ていた。足を濡らして遊ぶ総士を見ていたら無性に悲しくなり、鼻が山葵を食べた時みたいにつーんとし、さっきよりも視界が歪んで目頭から涙が溢れた。


「……どこか痛いの?」


総士がこちらに寄ってきて心配そうな顔で僕の様子をうかがってきた。
僕は涙を拭いながら「なんでもないよ」と言った。


「……一騎が言ってたんだ。なんでもないっていう人ほどなんかあるって…」


総士は僕の頬に伝う涙を、その小さな手で拭ってくれた。総士の言葉を聞いて脳裏に左目に傷がある男を思い出した。彼も同じ事を言っていたな、と。
その男も話し始めが「一騎が言っていた」だったので、余計に涙が出てきた。総士を見れば眉毛が八の字になっていて、総士まで泣きそうになっていた。


「泣くなよ総士、男だろう」


総士の泣き顔は彼が泣いてるように見え、余計に僕の心を締め付けた。


「男主もだよ……」


涙声で総士は言った。総士がその場で泣き始めてしまい、泣かせてしまったことに罪悪感を感じどうして良いか分からず総士を抱きしめた。
正直総士の泣き顔を見てるのが辛かったため抱きしめてあやすようにし、総士の顔を見ないようにした。総士を泣かせてはいけない、この子には笑顔でいて欲しいと心の底から思った。
そして総士はそのままうとうとし始めたので、僕はそのまま総士をおんぶして一騎の所に向かった。総士は僕の肩に顔を埋めたまま寝てしまい、服を掴んでいる。俺は総士の涙を拭ってやり、自分の涙も拭って何も無かったかのようにした。