彼らはライバルであり、恋人でもあった。
同性同士で恋人と言う表現は間違っていると指摘されそうだが、まさにそのまんまである。
万丈目の部屋から夜な夜な喘ぎ声が聞こえてきた(十代曰くくすぐってた)ことがあったし、十代と一緒に居て顔を赤らめる万丈目を何度も見た。
それを見て僕は無性に胸が苦しくなる事が何度もあった。
周りのみんなはそんな彼らを否定せず、むしろ祝福した。
皆が祝福する中、俺1人だけが眉毛をハの時にさせて静かに泣いていた。
しかし、泣いていても心の中は幸せと満足感で満たされていた。
彼らが幸せになってくれて嬉しい、と。


「また惚気話なら俺帰るけど……」


夜、遊城十代に酒臭い店の前に呼び出されては一緒に飲もうと言われた。
十代以外に翔や剣山、明日香もいた。
十代の事だから万丈目も呼んであるだろうと思ったが、生憎万丈目は仕事があって来れないらしい。
帰ろうとしたところ翔に「男主くんはまだ独り身っスからね〜」と言われカチンと来たので「お前らの金で飲んでやる!」と宣言して店に入った。
席は左に十代、右に明日香で正面に剣山と翔が座っている。
本当は端に座りたかったが明日香に「男主くんは真ん中よ」と言われて真ん中になってしまった。
少し疑問に思ったがなんでもいいか、と思いながらそのままメニューを注文した。
皆がそれぞれの現状を話す中、俺は枝豆と水を交互に食い飲んでいた。お酒は一滴も飲めないためソフトドリンクでも頼もうとしたが、飲みたいものがなかったため注文しなかった。
皆の私生活はそれなりに充実しているらしく、皆の薬指を見れば指輪をしているのが1人2人……、自分の指を見ても何もないため虚しさでため息をついた。
俺は皆が幸せそうなのを少し妬ましく思い、水を飲み干すとひたすら食べていた。
話もそれなりに聞いているが、トンネルのように右から左に抜けて内容は頭に入って来ない。


「男主」


隣から十代に話しかけられ、そちらを見ればいきなり口に食べ物を突っ込まれ俺は眠気が覚めたように目を見開いた。
噛めばイカの揚げ物でマヨネーズがついていて美味しい。


「すげえビビった」

「ははっお前1人でもそもそ食ってるからさ。みんなお前の話聞きたがってるぜ」


十代にそう言われ、横、正面を見れば皆笑顔で俺を見ていた。
俺はなんだか心が温まる気がし、目頭が熱くなり涙がこぼれた。


「ええっ男主!?」


翔は「ティッシュティッシュ!」と言いながら自分の鞄を漁り、俺にポケットティッシュを渡してきた。
俺はそれを受け取り、1枚取って鼻をかんだ。


「どうしたんだよー……情緒不安定か?」

「うぅ……俺は…十代と万丈目の事すら…素直に祝福出来ないのに…皆は俺みたいな奴でも飲みに…誘ってくれて……酒も飲めないのにぃぃ……」


酒は飲んでいないけど今泣けてくるのは酔ったことにしたい、そう思いながら溢れ出る涙を一生懸命袖で拭った。
明日香は俺をあやすように背中を撫でてくれた。
ホント明日香かっこ良すぎ……彼氏に欲しい……。
涙がおさまり翔から貰ったティッシュでもう1回鼻をかんだ。


「いろいろ溜まってたザウルス?」

「そうかも…最近バイトづくしだったし……」


鼻をすすり、明日香が俺のコップに水を淹れてくれたのでそれを飲む。
すると十代に肩を組まれ「ストレス発散しようぜ!」と言われ、俺は大きく頷いた。
「皆がいて幸せだなー」と思いまた食べ始めようとすると、「すまない」と聞き覚えのある声がした。


「おっ万丈目じゃねーか」


十代が手を挙げて言った。
スーツ姿の万丈目はネクタイを緩めながら正面の席にいる翔と剣山に「そっちに寄れ!」と言いながら明日香の目の前に座った。


「万丈目くんはこっちよ」


明日香が席を立ち、万丈目の手を引けば俺の隣に座らせ、明日香は万丈目がいた位置に座った。
俺は明日香と万丈目を交互に見て、明日香と目が合えばウインクをされた。
さっきのかっこ良すぎる明日香前言撤回!!!!!! 明日香のバカー!!!!!!
まさかの十代と万丈目に挟まれてまた気持ちが沈んでしまった。
昔の思い出が甦ってきては忘れろと自己暗示する。
すると十代に肩を掴まれ引き寄せられ、「万丈目は汗臭いから近寄るなよー」と言われた。
万丈目は「酒くさそうなお前に言われる筋合いはない!」と言いながら万丈目は俺の肩に回された十代の手を叩き落とす。


「明日香さん、ああなるのわかってて席を移動したんすか? 余計に五月蝿いんじゃ……」

「翔くんもわかってるでしょ。ふたりがお互いを愛す以上に男主くんに想いを寄せてるって」