俺は盛大なあくびをした。
ここ最近はユーゴのDホイールの部品を買ってあげるために仕事に時間を費やしている。
あいつは意地を張って「俺のDホイールなんだから俺が用意する」と言ったが、どう考えても彼自身だけでは無理だと思い、自分の生活費も稼ぐついでと思いながら仕事を前より増やした。
トップスの方に出向いては酒と金とタバコに塗れてる違法カジノのスタッフになったり、トップスの家に訪れては労働作業させられて安い賃金か土産を貰ったりと、そんな日が休むまもなく続いた。
唯一の休みの日が来ると死んだように眠り、起きるのはいつも夕方だった。
明日休みだと思う度「ユーゴに貯めた金を渡そう」と思っているのだが、いつも寝過ごしてしまって先延ばしになってしまう。
今日も俺は寝過ごしてしまい、布団から出て冷蔵庫を漁り、土産で貰った魚の缶詰を開けて食べ始めた。
食べてる途中でドアのノックが部屋に響き、「男主ー!」とドアの前で名前を叫ばれた。
魚の缶詰を食いながら「どうぞ」と言えばドアは静かに開いた。


「なんだ起きてたのか」

「今さっきな」


俺はまたあくびをした。
するとユーゴは俺の目の前の椅子に座り、何か言いたそうにしている。


「男主……ってさ、まだ俺のために金稼いでんのか…?」

「うん? あー、そうかも」


ユーゴが珍しく真面目な顔をしているので答えると、彼は「そうか」と言って黙ってしまった。
何の話がしたいのかユーゴの返答を待っていると、「あのさ…」と話を始めた。


「俺のDホイール完成したんだ。リンと一緒に部品かき集めてさ」

「! ホントか? 今度見せてよ」


結局ユーゴに部品代を渡す前に彼のDホイールが出来てしまい、少し残念だった。
でもユーゴがDホイールを完成させて自分の事のように嬉しい。
しかしユーゴはさっきから浮かない顔をしていて、そのまま話を続けた。


「聞いたぜ、部品のためにトップスの方に出向いては体を売ってるって……。もうやめろよ! 前までやってたゴミ漁りで金稼げば十分じゃねーか! 俺はそんなんで働いた金なんかいらねえよ……金より男主が大切だ……」


ユーゴは顔を赤らめて俯いた。
語尾が小さくなっていき、最後あたりは何を言っているか分からなかったが、体を売ると言う言葉にクエスチョンマークしか浮かばなかった。


「体を売る?」

「クロウが言ってたんだ。男主が俺のために仕事を増やして夜の世界に手を伸ばしたって……」


俺はそれを聞いて笑ってしまった。
笑ってる俺に対してユーゴは先程の俺と同じような顔をしていた。
後でユーゴにそんなこと吹き込んだクロウにお見舞いしてやろう。


「クロウの言い方が誤解を招いたな。夜の世界って多分違法カジノのことだろ」

「違法カジノ!? そんな所で働いてんのかよ!もっとダメじゃねーか!!」

「トップスの奴らが運営してても捕まりたくないがために俺らコモンズをいい時給で雇ってくれるんだよ。まあユーゴの話聞いてもう辞めるって決心したけど」


そう言うと、ユーゴは安堵の笑みを浮かべて喜んだ。


「しかし夜の世界って聞いて俺が体を売ったと思ったのか、マセガキめ」

「は、はぁ!? もうガキじゃねえ! 心配して損したぜ!」


ユーゴは椅子から立ち上がり、そのまんま勢いよくドアを閉めて帰っていった。
俺はそれを見て素直じゃないな、と思った。