「男主、トリックオアトリート!」


十字路の右から素良がいきなり出てきて、両手を俺に差し出しながら言ってきた。
素良はクマの着ぐるみを来ていて、両手と腕の籠の中には沢山のお菓子が入っている。
十分じゃないかと思ったが、素良だからしょうがないと一人で納得した。


「これでいいか?」


素良が来てもイタズラされないように、前もってポケットに飴を忍ばせておいて正解だった。
俺はポケットから飴を取り出し、それを素良の手のひらに乗せた。


「男主のことだから今回も用意してないと思ったのに……ま、良いけど。僕からもあげるね!」


そう言われ、素良から「少ししゃがんで」と言われた。
俺は言われた通りに素良と目線を合わせるように少ししゃがみ、「目をつぶって」と言われたので、目をつぶった。
すると頭に何かを付けられた感触があり、目を開けて頭を触る。


「さっき女子から貰ったけど僕今回はクマの仮装してるから美稀にあげるね! 尻尾がないのは少し残念だけど」


素良に「じゃ、僕もっとお菓子を貰いに行かないといけないからじゃーね」と言われ、素良は何処かへ行ってしまった。
俺はこれからユーリの部屋に行くため頭に付けられた猫耳カチューシャを取ろうとしたが、どうせならこの姿で言ってユーリにお菓子でも貰おう、と思いそのままユーリの部屋に向かった。


「何その頭」


ユーリの部屋に入ったとたん冷めた視線を向けられながら言われた。


「トリックオアトリート、なんてね」


ユーリの部屋の中に入り、椅子に腰掛ける。
ユーリは俺の正面の椅子に腰掛け、足と腕を組む。


「紫雲院素良につけられたんだ、ふーん」

「ユーリにお菓子でも貰おうと思ったけど、どうやら持ってないらしいしね」


俺は机の上に頬杖を付きながら言う。
するとユーリは少し笑った。


「じゃあ僕にイタズラしなよ。お菓子を上げないとイタズラするんでしょ?」

「ええ?」


俺は少し考え、自分の着けている猫耳カチューシャを取り、ユーリの頭につけた。
ユーリは何が起きたかわからない顔をして、先ほどの俺と同じように自分の頭を触る。


「変なのつけないでくれる?」

「似合うけどな。可愛い可愛い」


笑いながら言うと、ユーリはいつもみたいな呆れた様子で返答してこなく、無言のまま。
どうかしたのかとユーリの顔を見るためにテーブルに頭を乗っけて下から見ようとすると、何処から現れたのか分からない角がついたカチューシャをすごい速さで付けられた。


「せっかく君のために用意したのに紫雲院素良に先を越されるとか癪だね」

「ええええなにこれ、角?」

「尻尾もあるから付けてもらうよ」


ユーリは悪魔の尻尾みたいな物を手に持って、俺に今日一の笑みを向けた。