「日向ー」

「日向センパイ」



部活中、順平くんはよく名前を呼ばれる。みんなに頼りにされていてすごいな、と思う。けど、それと同時に嫉妬もする。順平くんは誰のものでもないけれど、私の彼氏だ。そんな彼が他の人の相手ばかりしていたらやっぱりちょっと妬ける。独り占めできるものならしたい。でもそんなこと絶対に言えないし、きっと引かれてしまう。



『リコちゃん』

「ん?ってどうしたの名前、顔色悪いわよ?」

『だって順平くんが』

「日向くんが?」

『全然私に構ってくれないから』



私がそう言うとリコちゃんは目を丸くして、そのあとため息をついた。私はいつもそんなことばかり言っているからきっと呆れているんだ。



「練習中に彼女の相手できるわけないでしょ」

『そうだけど…、でもみんな順平くんの名前呼んでて、なんかやだ』

「男同士なんだからいいじゃない」



リコちゃんはそう言うけれど、全然良くない。男同士だって、順平くんと仲良く話してるのは見たくない。私の前で他の人と仲良くするのはやめてほしい。

私はきっともの凄く嫉妬深い。そんなの自分が一番よく分かっている。だけど、嫌なものは嫌なのだからしょうがない。この気持ちを抑えることはできない。



「日向くんは私と名前が話しててもきっとそんなこと思わないわよ?」

『分かってるよ。だって順平くんは妬かないもん。私が他の男の子と話してたってなんとも思わないだろうし』

「それは違うんじゃない?」

『えっ?』



何が違うんだ、と思っていたらリコちゃんは大声で火神くんを呼んだ。練習中だった火神くんはピタリと足を止め、駆け足でこっちに向かってくる。

そして火神くんがやってくるとリコちゃんは湿布交換、と言って私に湿布を渡してきた。昨日火神くんは練習中に足を痛めた。でも湿布は練習前に貼り替えたばかりのはず。なのになぜ。



「あの、さっき貼ったばっか」
「いいから湿布交換!名前!」

『っ、はい』



やはり火神くんも同じことを思っていたらしい。でもリコちゃんに言われ何も言えなくなった。

火神くんがしゃがんだから私もその隣にしゃがむ。湿布を剥がすとそこはまだ赤く腫れていた。この足でよく練習を続けていられるな。



『まだ痛い?』

「まぁ、ちょっと」

『そうだよね、赤くなってるもんね』



リコちゃんに渡された湿布を手に取ると、湿布特有のスースーする臭い。この臭いは嫌いじゃない。むしろ好きだ。

湿布のフィルムを剥がして貼る場所を確認する。



『貼るよ?』

「うす」



足に湿布を貼り付けると、火神くんは冷たさのせいか少し体を震わせた。湿布というものはなんでこんなに冷たいんだろうか。



「名前」

『っ…』



火神くんじゃない声に呼ばれて振り返るとそこには少し怖い顔をした順平くん。あれ、いつの間に休憩になったんだろう。周りを見るとみんな座って水分補給をしていた。



『どうしたの?』

「ちょっといいか?」

『うん』



歩き出す順平くんの後ろを追いかける。順平くんは私の歩幅に合わせることなくたんたんと歩いてゆく。

体育館を出たあたりで順平くんの足は止まった。みんなが居ないところに来たということは、何か聞かれたくない話があるのかもしれない。



「名前」

『っ…!』



いきなり名前を呼ばれたと思ったら力強く抱きしめられた。少し痛いくらいだ。抱きしめてくれたから怒ってはいないだろうとは思うけれど、順平くんはずっと黙ったままで何を考えているのか分からない。

沈黙に耐えられなくなった私は順平くんの名前を呼んだ。順平くんは私の声に少しだけ抱きしめる力を緩めた。



「引かないで聞いてくれ」

『うん…?』

「ちょっと妬いた」

『えっ…』

「さっき火神に湿布貼っただろ?」

『っ…』



順平くんの言葉に驚いた。絶対妬いたりしないと思ってた順平くんが、妬いてくれた。この気持ちをどう表現したらいいか分からないが、嬉しいことは確かだ。



「引いたか?」

『っ、引かないよ。だって私だっていっぱい妬くもん』
「えっ…」

『練習中順平くんみんなに名前呼ばれるでしょ?その度に私、妬いてた。順平くんは私の彼氏なのにって』



嫉妬深い彼女でごめんね、そう言って笑うと順平くんはそんなことねぇよといいながら頭を撫でてくれた。



『私ね、順平くんは妬いたりしないと思ってた』

「俺だって妬くわ」

『ふふ、そうだね』



いきなり体育館の外に連れ出されたときは驚いたけど、怒ってるんじゃなくて良かった。順平くんも私と同じ気持ちだった。



「名前」

『ん?っ…』



順平くんの指が私の唇に触れた。そしてなぞるように右から左へ動いてゆく。物凄くドキッとした。キスをされるよりももっと緊張して、こんなことをされるのは初めてで、どうしたらいいのか分からなくなった。

順平くんは私の唇を見つめている。



『じゅん、ぺい…くん』

「なぁ、キス…してもいいか?」

『っ…、い、いいよ…』



順平くんを見つめながらそう言ったらすぐに彼の顔が近づいてきた。数秒後、重なる唇。さっきあんなことがあったせいかいつもより恥ずかしくて、私は順平くんの服をぎゅっと掴んだ。順平くんは驚いたようで顔を離した。



「どう、した…?」

『なんか、いつもより…恥ずかしいなって、思って…。順平くんがさっき、私の…くち、びる、触ったから…』

「っ…、ならよかった」

『えっ?』

「いつもより俺にドキっとしてほしかったから」



だからあんなことしたの?と聞くと順平くんは恥ずかしそうに頷く。その姿にもまたドキッとしてしまい、今日はいっぱいドキドキさせられる日だと思った。



「そろそろ、戻るか」

『うん』



先に歩き出した順平くんを追いかけようとしたら順平くんが振り向いて一言。



「好きだ」



やっぱり今日はいっぱいドキドキさせられる日。




甘さ加減もほどほどに


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