幸男くんの家に行ったら幸男くんが映画を観ていた。邦画みたいだけど観たことない感じのやつで、なんの映画だろうと思っていたら幸男くんがDVDプレイヤーの電源を消した。気を使ってくれたのだと思い、観ててもいいよ?と返すと大丈夫だと返された。本当にいいのに、と思っていると目に入るDVDのパッケージ。それを見て私は幸男くんが電源を落とした理由を悟った。
『ホラー映画だったんだ』
そう、幸男くんが観ていたのは私が苦手なホラー映画。観るのをやめたのは彼女がいるのに映画を観るのは悪いと思ったからではなかった。
「お前苦手だったよな?」
『うん』
苦手といえば苦手だけど、幸男くんがせっかく観ていたのにやめさせるのはやはり申し訳ない。それに、彼氏とそういう怖いのを観るのにはちょっと憧れてたり。きゃー怖い、なんて言いながらくっついたりしているのをよくマンガとかで見るし。女子なら誰しも憧れるシチュエーションではないだろうか。私は幸男くんに近付き口を開いた。
『あ、のさ…観てもいいよ』
「は?でもお前」
『怖いよ?だけど、幸男くんが一緒だし。大丈夫かなぁって…』
「……お前がいいなら、いいけど」
『じゃあ観よう』
幸男くんが電源を点ける。私は幸男くん隣に座って画面を見つめた。どうやらまだ序盤の方で怖いシーンはまだのようだ。でもこういうのは気を抜いてると急に出てきたりするから安心できない。私は服の裾をぎゅっと握った。
しばらく観ていると音が怪しくなってきてそろそろ出てくる気配がしてきた。幸男くんの方を見るとその顔は画面に釘付けで、私は真剣に画面を見つめる幸男くんに釘付けになってしまった。かっこいいな、なんて思いながら見つめて、ようやく画面に視線を戻したとき、私は悲鳴を上げた。丁度怖いシーンだった。
「っ!」
『出たっ…!』
そう言って幸男くんの腕を掴む。幸男くんは驚いたような反応をして、私を見つめた。
「っ、大丈夫じゃねぇじゃん…」
『っ!だってぇ…!』
更に強く腕を掴むと赤い顔で押し返される。え?と思っていると「あ、当たってる…!」と。
自分の胸を押し付けていたと気が付きすぐさま頭を下げて謝る。幸男くんはこれまた赤い顔で怒ってないといい、DVDプレイヤーに手を伸ばした。
『えっ、待って!切らなくていいよ、大丈夫だから』
「大丈夫ってお前、すげぇ怖がってんだろ」
『だ、だから、幸男くんがいれば平気だって』
「っ…」
幸男くんを手を引っ込めて恥ずかしそうな顔でこっちを見た。
「本当に無理だったら言えよ?」
『うん』
そんなこんなでまた映画を観始めた私たち。一度怖いシーンがあるとそれは続くもので、立て続けに恐ろしいものが出てくる。その度に私は手で目を覆った。そしてもう片方の手は幸男くんの腕を掴む。怖いことに変わりはないが幸男くんが隣にいると少し安心する。
『出る…?』
「たぶん大丈夫だろ」
『本当?』
大丈夫かな、そう思って目を覆っていた手を離そうとすると、視界が真っ暗になる。中に浮いた手で目の前の者に触れるとそれはとても温かく、感触から幸男くんの手であることが分かった。
「悪い、今観ない方がいい」
『っ…ありがとう』
しばらくの間視界を塞がれて、もういいんじゃないかなと思って口を開こうとすると、唇に当たる温かい何か。
『えっ…』
今のって…もしかして、キス?
幸男くんの方を見たいのに目を覆われていて見ることができない。こうなったら力ずくだ、そう思って幸男くんの手を掴んで離そうとするけどすごい力で押さえられていてびくともしない。
『幸男くん、見えない』
「観なくていい。今ヤバいとこだから」
『っ、映画はどうでもいいよ。私が見たいのは幸男くんの方』
「っ!」
目は塞がれているけど幸男くんが反応したのが分かった。今の感じから察するにやはりさっきのはキスだったらしい。
ようやく観念したのか幸男くんの手が離れた。ずっと押さえられていたせいで目がショボショボする。
『幸男くん、さっきの…キス、だよね?』
「っ…、あぁ」
『びっくりした』
「悪い」
『え、怒ってはないよ?…でも、なんでいきなり』
「……怖がってるお前が、なんつーか…、かわいくて、…我慢できなかった」
真っ赤な顔でそんなことを言われてこっちまで赤くなる。恥ずかしさで幸男くんのことを見ることができない。
可愛いとか我慢できなかったとか、そーゆーの反則だって。ずるいよ。そんなこと言われたら私だって、我慢できなくなっちゃう。
「っ!」
私は幸男くんに抱きついた。顔を胸に押し付けると幸男くんの心臓がすごい早さで動いているのがよく分かる。きっと同じくらい私の心臓も早く動いている。
顔を離して上を向くと目が合う。そして引き寄せ合うように顔を近付けて、静かにキスをした。
『っ…、もう…いっかい』
「っ…」
今度は小さく音を立てて唇を合わせる。
1日に2回以上キスをしたのは初めてだ。何回してもやっぱりドキドキする。心臓が壊れそうなくらいに。でも、幸せ。
『幸男くん……、すき…だいすき』
「っ、俺も…」
『……俺も?』
「す、好きだ」
そういうシチュエーション、憧れます
(幸男くん目隠しプレイとか好きそう)
(はぁ!?何言ってんだ!)
(ふふっ、いつかそーゆーことするようになったらしてもいいよ?)
(っ、バカなこと言ってんじゃねぇ!シバくぞ!!)