『あ、幸男だ』


下校中、100メートル程先に幼なじみの幸男の姿を見つけた。その周りには何人かの友達もいる。背の高い人が多いからバスケ部かな。


「幸男って誰?」

『幼なじみ』

「えっ、どの人!?」

『一番背低いの』


私がそう言ったところで隣の友達は首を傾げた。なんだろうと思っていたら一言。


「そういや名前男子苦手じゃなかった?」

『幸男は別』

「なにそれ」

『幸男は昔からずっと一緒だったし、純情だから』


私は男子が苦手だ。わざわざ女子校に通うくらい。でも小さい頃からずっと一緒にいて他の男子とは違って純情で、女子が苦手な幸男は別。というか私は幸男が好きだ。昔からずっと。


「ねぇ!幸男くんの隣にいるのって黄瀬くんじゃない!?」

『えっ、あ、うん。そうだね』

「そうだねって、えぇ!?」

『だって幸男と黄瀬くんチームメイトだし、バスケの』


そう言うと彼女はあっちへ行こうと言い出した。あっちっていうのはもちろん黄瀬くんの元。どうやら彼女は黄瀬くんのファンらしい。

幸男とは帰り道も一緒だしまぁいいかと思って私は頷いた。そして早く行きたいと言う友達に手を引かれながら早足で幸男の元へ向かった。


『幸男』

「っ、名前」

「えっ、誰!?なぁ笠松!」


幸男に声をかけると一瞬驚いた顔をしたあと私の名前を呼んだ。そしてその隣にいた切れ長の目の男の子が騒ぎ出した。男子が苦手な私はそれに驚いて一歩引いた。


「幼なじみ」

「なんだと!?女子苦手なくせになんでお前にこんな可愛い幼なじみが!!」

「うっせぇよ!!つーかそれはお互い様だ。コイツだって男苦手だし」


幸男がそう言うと男子全員がこっちを見た。いきなり大勢の男子に見られた私はそれに耐えられなくて彼らに背を向けた。


「ホントっスね!」

『っ…!』


いきなり黄瀬くんが私の顔を覗き込んできた。ビックリした私は隣の友達に助けを求めた。でも彼女は私のことなんかお構いなしで黄瀬くんに熱い視線を送っていて、助けを求めるのは無理だと察した私は近くにいた幸男の後ろに隠れた。


「っ、おい」

『だって…!』

「はぁ…」


幸男の服を掴んで隠れると彼は小さくため息をついた。どうやら怒ってはいないようだ。呆れられてはいるみたいだけど。


「笠松ずりぃ!」

「なにがだよ」

「そんな可愛い子に頼られて!」

「盾にされての間違いだろ」

『っ…』


盾って…。まぁ間違ってはないけども。


「つーかさっきからうるせぇよシバくぞ」


その一言で彼は静かになったけど依然こちらに視線を向けている。幸男が女子といるのが余程珍しいらしい。まぁそれもそうか、幸男は女子が苦手だし。


『幸男、一緒に帰ろ。今すぐに』


私はそう言って幸男の手を引っ張った。幸男は「友達はいいのかよ」なんて言ってるけど正直いい。だって彼女は黄瀬くんしか見てないしむしろ私たちがいなくなった方が黄瀬くんとゆっくりお喋りできるのではないだろうか。

そう考えた私はそのまま彼女に別れを告げて幸男と歩き出した。切れ長さんが後ろでピーピー騒いでるけどそんなの気にしない。だって私は男子が苦手だから。


「うっせぇな」

『切れ長さん?』

「は?切れ長さん?…って森山のことかよ」

『あの人森山くんていうんだ。かっこいいのに喋ると残念だね』

「っ、お前もかっこいいとか思うんだな」

『それくらいは思うよ』


いくら男子が苦手と言えどイケメンを見ればかっこいいなと思う。苦手であって嫌いではないから。


「お前あーゆー顔が好きなのか?」

『いや、全然。ただイケメンだなって思っただけ』

「ふーん」


幸男は興味なさげにそう言うと私から視線を逸らした。私の好きなタイプが気になったのかなと思ってちょっとドキドキしたのに残念。


『幸男はどんなのがタイプ?』

「は?俺?」

『うん。私たちずっと一緒にいるけどそーゆー話したこと無いじゃん?』

「まぁ、確かに」


幸男はどんな子が好きなんだろう。優しい子?可愛い子?面白い子?頭がいい子?私と正反対だったら嫌だなだな。


隣の幸男は考えてるのか考えていないのかよくわからない顔をしている。


タイプとか無いのかな…?好きになった奴がタイプとかそういうのだったり?そうだったらちょっとは望みあるのかな。


「お前」

『えっ、なに?』


いきなり呼ぶからなんだろう思ったらもう一度お前と言われた。意味が分からなくて幸男を見つめるとその顔はみるみる赤くなっていった。


『えっ、どうしたの?』

「だから、タイプだよ」

『うん?』

「っ……お前だって言ってんだろ」

『……えっ、』


フリーズした。幸男の言葉を理解するのにかなりの時間がかかった。目の前の幸男は未だ顔を赤くしていて、それにつられるように私も赤くなる。


「………お前はどんなのがいいんだよ」

『っ、私は………、優しくて、かっこよくて、負けず嫌いで、体育会系で……、だからつまり…、幸男、とか』

「っ…」


ちらっと幸男を見ると手で顔を覆って恥ずかしそうに耳まで赤くしていた。


そういう照れ屋なところも好き…だな。口に出したら怒られそうだから絶対言わないけど。


「お前、俺のことちゃんと男だと思ってたんだな」

『へ?』

「男として見られてないと思ってた」

『っ、それは私も同じだよ。女として見られてないと思ってた』


私は男子が苦手で幸男は女子が苦手。でもお互いは平気だから、2人とも自分のことは異性として見ていないんだと勘違いしてたようだ。今日その誤解が解けた。


『幸男以外の男子と話したことなんて全然ない、でも幸男以外の男子もちゃんと見てきた。だけど私は、その中で幸男が一番だって思った』

「っ…」

『だって幸男みたいに優しくて、私のことちゃんと分かってくれる人なんて他にいないもん。だから私は幸男が好きです』

「っ、先に言うなよ」

『えっ、ごめん。じゃあ幸男もどうぞ』

「…それはおかしいだろ」

『えっ、じゃあ言ってくれないの?』

「……好きだ」

『ふふっ、ありがとう』


私は顔を赤くした幸男をずっと見つめていた。




あなたのすべてが





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アンケートに「笠松さんの同い年幼馴染が女子校に通ってる話が読みたい」と書いてくださった方がいて、書きたい!と思ったので書かせていただきました!
アンケートに答えて頂いた方、ありがとうございます!


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