03

『あの、笠松くん。私笠松くんのこと、ずっと…』



っ!えっ、私今なんて言おうとした?もしかして好きだって言おうとした?



『あ、あの、えっと、やっぱり何でもない!』

「……?」

『今のは忘れて。大したことじゃないから』

「…おう」



笠松くんはどこか疑問に思いながらも納得してくれたようだ。よかった。もしここで続きを促されたりしたら大変なことになっていた。



「なぁ、一つ、聞いてもいいか?」

『えっ、うん』



ホントに私に聞きたいことがあったのか沈黙に耐えられなくなったのかは分からないが、笠松くんが私に質問してくれるらしい。



「お前は、なんで海常に来たんだ?」

『えっ、なんでって…』

「中学、結構いいとこだっただろ?」



なんでって、それは、笠松くんが行くと思ったからだけど。でもこんなこと言えないし。近い、って言うのもおかしいな。一番近いわけじゃないし。なにかいい理由は……あっ。



『あのね、私スポーツ見るの好きなの。で、海常は部活が盛んで運動部がどこも強いから、それで海常に、したの』

「そう、なのか」

『うん。……か、笠松くんは、バスケが強いから海常選んだんだよね?』

「あぁ」

『海常はバスケで有名だもんね』



神奈川の人はみんな知ってるんじゃないかな。海常がバスケ強いって。月バスでも取り上げられるくらいだし。まあそこまで有名だから私も海常を選んだんだけどね。だって笠松くん絶対来ると思ったし。



『あの、笠松くん。私と話すの、嫌じゃない?』

「お、おう…」

『そっか、ならよかった…』

「……なんつーか、その、お前のことは中学のときから知ってたし、だ、だから普通の奴よりは幾分か、話しやすいっつーか、その…」

『ホント?じゃあ、これからもときどきこうやって、話してくれる?』

「えっ?」



えっ?

っ!私何言ってんだろ。これじゃ笠松くんに私の好意がバレ…



「俺でよければ、話し相手くらいには…」

『えっ…』



笠松くんは私の好意には気付いていないようだ。そもそも笠松くんは女心というものがほとんど分かっていないのだろう。だって女子苦手だし。だからあれで私の好意に気付くことはないのだと思う。



『じゃあさ、学校で私から話しかけてもいい?』

「おう」



あれ、今ちゃんと私の目見てくれた?

っ!笠松くんがこっち見てくれた!?すごい!どうしよう!


嬉しさのあまり心の中で叫んでいると笠松くんに不思議そうな目で見られた。


いかんいかん、取り乱してしまった。



『笠松くん、今度バスケ部の見学に行ってもいいかな?』

「…いいけど、黄瀬のファン、が…」

『あぁ、黄瀬くんのファンいつもいっぱいいるよね』

「…5時、くらいなら、黄瀬のファンも減ってると、思う」

『本当?じゃあそのくらいの時間に見学行くね!』

「おう…」

『あ、私の家もうすぐだから、ここでいいよ』

「い、いや、ちゃんと家まで送らねぇと、あとで森山になんか言われるから」



おぉ、森山くん恐るべし。



『じゃあ、後ちょっとだけど、お願いします』



そう言って軽く頭を下げると笠松くんも同じように頭を下げた。森山くんとか黄瀬くんの前では絶対やらないだろうななんて考えてちょっと可笑しくなった。

数分後、家に着いて笠松くんにお礼を言って別れた。部屋に入ってベッドにダイブして今日あったことを考える。



『私、笠松くんと話したんだ』



話したどころか家まで送ってもらった。今日友美ちゃんに笠松くんのことは見てるだけでいいって言ってたのに。まさかこんなに笠松くんと近付くことになるなんて。明日友美ちゃんに話したらびっくりするだろうなぁ。



『明日も、笠松くんと話せるかな』



話せるといいな。笠松くんから話しかけてくることはきっとないと思うから、私から話しかけなくちゃ。

よし頑張ろう。










次の日。いつもより早く目が覚めてしまったため少し早く家を出た。少ししか変わらないのに外の景色がいつもと違う気がして新鮮だ。電車もいつもより空いてたし歩いている人も少ない気がする。

いつもこの時間に出れば満員電車に乗らなくてすむのか、そんなことを思いながら電車に揺られた。

学校に着いたのはいつもより30分も早い時間だった。予想はしていたが教室には誰もいなかった。


教室ってこんなに広かったっけ。一人だとこんな感じなんだ。


教室が意外と広かったということに感心していると廊下から足音が聞こえた。その足音はだんだんこっちに近付いてきて、そして止まった。

ん?と思いつつ廊下に目を向けると、その足音を出していたであろう人物と目が合った。



『っ!笠松くん!?』

「っ!」



笠松くんはジャージを着ていて、額に汗をかいている。



『おはよう、部活中?』

「あぁ。…部活のプリント、忘れて」

『そっか』

「おう」



笠松くんは自分の机に手を突っ込むとプリントを何枚か取り出した。そしてその中から部活のプリントを探し出しあとのプリントをまた机に戻した。



『机にプリントためてるの?』

「えっ…、あぁ、整理しようと思ってんだけど、なかなかな」

『笠松くんちゃんとしてるイメージあったからなんか意外』

「そう、か?」

『うん』



あ、会話終わっちゃった。


笠松くんはこの沈黙に耐えられなくなったようで、じゃあ、と言って教室から出て行った。私は笠松くんが出て行くのをじっ見ていた。



『今日も会話、できた』



そんなに長い間話せた訳じゃないけど二日続けて笠松くんと話せた。これは私にとってすごいことだ。今すぐにでも友美ちゃんに言いたい。


私が笠松くんと話すことかできたことを友美ちゃんに伝えられたのはその20分後だった。案の定友美ちゃんは驚いていて、何があったのか詳しく聞かせなさい!と迫ってきた。私は昨日のことと今朝のことを包み隠さず彼女に話した。



「笠松くんと話してどうだった?やっぱり見てるだけじゃなくて話せた方がいいって思ったでしょ?」

『それは、まぁ…』

「それが普通なのよ。だって見てるだけでいいとかあり得ないもん」

『えぇっ、あり得なくはないでしょ』

「あり得ないの!あ、そうだ。で、あんたいつバスケ部の見学行くの?」

『えっ?』



首を傾げると友美ちゃんにガシッと肩を掴まれた。



「バスケ部見学に行くって笠松くんと約束したんでしょ!」

『あぁ、うん』

「それいつ行くのよ」

『えっ、いつって言われても…』

「行くときはちゃんと笠松くんに言うのよ?」

『えっ!そんな、無理だよ!』



両手を横に振って無理だよアピールをすると友美ちゃんに怒られた。笠松くんと話せるようになったのに何言ってんのよ!と。友美ちゃんはすごい剣幕だった。



『頑張ります』



結局私は彼女を前にしてそう言うことしかできなかった。



「見学私も行こっかなぁ」

『えっ、ホント!?』

「うん、だって小堀くん見れるし」

『あ、そっか。友美ちゃん小堀くんのこと好きなんだよね』

「いや、好きっていうか、まだいいなぁって思ってる程度だから」

『そうなの?でも小堀くんいい人だよね』

「いい人どころかもう天使よ!誰にでも優しいんだから!」



友美ちゃんは小堀くんのいいところを熱弁し始めた。友美ちゃんがこのテンションで話し始めるといつももの凄く長くなる。もうこれを何回も経験してるから私には分かる。

友美ちゃんの話が終わったのはその15分後のことだった。今の私なら小堀くんのいいところを100個くらい言える気がする。それほど友美ちゃんの小堀くんの話はすごかった。



『あっ、笠松くん』

「えっ、あぁ、部活終わったのか。あ、あんたお疲れ様とか言ってきなさいよ」

『えっ!無理だよ!』

「笠松くんに学校で話しかけてもいいか聞いたんでしょ?だったら行かないと」

『うっ……、分かりました。で、でも友美ちゃんも一緒に来て!お願い!』

「しょうがないわねー」



友美ちゃんを引き連れ笠松くんの席に向かう。笠松くんの横に立つと笠松くんもさすがに気付いたみたいで顔を上げた。



「っ!」

『あ、あの、部活…、お疲れ様』

「お、おう。さんきゅ…」

『う、うん』



言い終わってすぐ自分の席に戻るとまた友美ちゃんに怒られてしまった。でも私はこれでいいと思う。焦る必要なんてない。ゆっくり仲良くなっていけばいいんだ。



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