02

放課後、図書当番が終わり私は帰ろうとしていた。すると図書委員の先生が来て、仕事を頼まれてくれないか、と言われた。予定も無かったしあっさり承諾してしまった私だが、後から後悔することとなる。



『えっ、これをひとりでですか?』

「悪いな、手伝いたいんだが仕事があって無理なんだ」

『そうなんですか』



頼まれた仕事は、新しい本を本棚に入れることだった。一見簡単そうだがみなさんよく見てほしい、この本の数を。ダンボールが5つもあるではないか。これを適当に本棚に入れるのではなくちゃんと分類ごとに分けて入れなければならないのだ。



「じゃあ、よろしく頼む」

『はい』



内心、待って先生、とか思ってたけど何も言えなかった。


てゆーかこれ終わるかな…。帰るの何時になるんだろう。完全に夜だよね。でもまあ、遅くまで部活やってるとこはいっぱいあるし、いっか。



『よいしょっと』



何冊かの本を手に持ち本棚に向かう。


てかこれ分類バラバラだし。先生せめて部類ごとにしといてくださいよ。ホント終わんないよこれ。










結局終わったのは運動部しか残っていないくらいの時間だった。



『え、廊下真っ暗じゃん』



先生電気消したな。図書室はまあひとりでも大丈夫だったけどこれは無理だよ。暗すぎるよ先生。私本当は怖がりなんです先生。



『友美ちゃん連れてくればよかった』



今更そんなことを思った。でもまさかこんなことになるなんて思わなかったからそれくらい思ってもいいよね。

ダッシュで行けば平気かな?でも廊下走ったら…、いやいや、今は緊急事態だから!


私はダッシュで職員室に向かった。先生はまだ作業をしているようだ。



『先生、終わりました』

「おお、ありがとう。あ、お礼にこれ」

『いちご大福!いいんですか?』

「こんな時間まで残ってくれたからな」

『ありがとうございます!じゃあ私帰りますので、先生仕事頑張って下さい』



今私の頭はいちご大福でいっぱいだ。あの仕事量だけどやっぱり食べ物を出されたら許せてしまう。ましてや私の大好きないちご大福。

私は先生にさよならを言って職員室をあとにした。



『夜の学校ってこんな感じなのかぁ』



そういえばこんな時間まで残ってたのは初めてだなぁ。運動部は毎日こんな時間までやってるのか。すごいなぁ。


下駄箱で靴を履き替えて数十歩歩いたところで私は足を止めた。



『っ……』



笠松くん、とその仲間たち。あ、えっと、バスケ部の人ですすいません。


私はどうしたものかと悩み、軽くお辞儀をしてその場から立ち去ることにした。



「ちょっと待った!」

『えっ…』



呼び止められて後ろを向く。今私を止めたのはたぶん森山くんだろう。

彼は私の方にやってきて私の目の前で止まった。



「ひとりで帰るのか?」

『う、うん』

「こんな遅くに女の子がひとりで歩くのは危ない」

『え、そんなに遅くな』
「俺たちが送っていこう」

『えっ!』



俺、たち…。それはつまり、笠松くんも一緒ということですか。って、あれ、ちょっと待って。私笠松くんと最寄り駅同じなんだけど。え、もしかしなくてもこれは…。



「君、笠松と同じクラスの子だよな?」

『うん』

「家はどこだ?」



そう聞かれて私はあっさり言ってしまった。言ったあとしまったと思ったがもう遅い。



「それって、笠松と一緒じゃないか」

『っ……』

「笠松、家まで送っていけ」

「はぁっ!?」



はぁっ!?森山くんふざけないで!それは無理だよ、ホントに。だって私の心臓もたないもん。それに…



『か、笠松くんて女子苦手でしょ?だからいいよ。私ひとりで大丈夫だし』

「いいや、ダメだ!方向が一緒なのにバラバラで帰るなんておかしいだろ。それに笠松だっていつまでも女子が苦手じゃダメなんだ!」



え、待って。話したこと無い人が一緒に帰る方がおかしいと思うんだけど。バラバラに帰る方が正解だと思うんだけど。森山くんどんな思考してるの。あ、これは悪口とかじゃないよ?



「笠松、いいな?」

「っ!なんで勝手に決めてんだよ!」

「ちょっ、笠松センパイ。そんなに嫌がったらこの人に失礼っスよ」

「……」

「すいませんっス、うちのセンパイが」



なんか黄瀬くんに謝られた。てゆーか黄瀬くん近い。怖い。私チャラい人苦手なんだけど。それ以上近寄らないで下さい。



「えっ…」



一歩下がったら黄瀬くんに驚かれた。


なんで?



「あんた俺のファンじゃないんスか?」

『えっ、違いますけど。むしろモデルとか苦手です』

「えぇっ!!」



なぜそんなに驚く。って、森山くんもかい!



『私チャラい人無理なの』

「なんか追い討ちかけられたらっス!」



え、そんなつもりじゃ…


黄瀬くんは悲しそうな顔をしながら下がっていった。



「本題に戻ろう」

『えっ?』

「笠松、彼女を家まで送れ」

「………………分かったよ」

『えっ!?』



いいの!?いやダメでしょう!笠松くんがよくても私がダメでしょう!



『いや、あの…』



なにか断る方法を考えたがなにも思いつかなかった。私は喪心状態になり、なにも考えずただ足だけを動かし、気付くと駅に着いていた。



「ここからは別々だな」



ホントに笠松くんと二人で帰るの?私心臓もつ?あの、森山さん。聞いてますか?聞いてませんよね、知ってます。


黄瀬くんは笠松くんに、頑張ってくださいっス、と声をかけている。


あの、私にも頑張れって言ってほしいです。



「じゃあな」

『っ!』



ホントに行っちゃうんですか!え、えっ、どうしたらいいの。


みんなが帰って笠松くんと二人だけになった。お互い言葉を発さず、ただ俯くばかり。


やっぱり、話さなきゃいけないんだよね。二人で黙ってるのは気まずいよね。でも何を話せばいいんだろう。



「い、行くか」

『っ!』



笠松くんがいきなり話しかけてきたから驚いた。驚きすぎて鞄を落とした。すぐ拾ったけど。


笠松くんは私が鞄を拾うのを確認して歩き出した。私もその後に続く。途中サラリーマン風のおじさんと目が合った。おじさんはなにやらニヤニヤしていた。


も、ももも、もしかして、恋人同士だとか思われてたりしないだろうか。違うんです!そーゆーのじゃないんです!私の片想いなんです!


ドンっ



『わぁっ、っ!』

「っ!」



下を向いていたせいで笠松くんの背中にぶつかってしまった。



『ご、ごめんなさい!よそ見してました』

「い、いや…」



笠松くんを見るとその顔は真っ赤だった。でもそれは怒って真っ赤になったとかそーゆーのじゃない。きっと女子が苦手だからだ。私がぶつかってかなり驚いたのだろう。いや、私も驚いたけどね。



『ホントに、ごめんなさい』

「いや、だ、大丈夫だ」



周りから見たらかなり奇妙な光景だろう。男女が目も合わせないで会話をしている。笠松くんに至ってはもう尋常じゃない慌てっぷりだからホントに変だと思う。

そこから会話はなくなり、電車に乗っているときもお互い無言だった。というか電車の中で話すとか無理だろう。周りの人に話聞かれてるわけだし。



『あっ…』  



次だ。


次の駅が私と笠松くんの最寄り駅。笠松くんも私と同じことを考えていたらしく、しきりに窓の外を見だした。

プシューという音と共にドアが開く。人の波に流されながら私と笠松くんは電車を降りた。

 
電車降りたし話しかけた方がいいかな?でも何も話題がないよ。



「い、家、あっちだろ?」

『えっ……、あっ、うん』



ってあれ?なんで私の家の方向知ってるんだ?笠松くん朝は朝練だし帰りも部活で遅くなるだろうから私と帰る時間かぶることなんて無いはずなのに。

聞いても、いいのかな?でもなんて言えばいいんだろ…。そもそも笠松くんに話しかける勇気なんて…



「だ、大丈夫か?」

『えっ?……うわぁ、ごめんなさい』



顔を上げると笠松くんは私の数歩前にいた。どうやら私は考えることに夢中で知らず知らずのうちに歩くスピードが遅くなっていたらしい。

ごめんなさいちゃんと歩きます、そう言って笠松くんに駆け寄った。


あ、今聞くチャンスなんじゃないかな。



『あ、あの、笠松くん』

「なん、だ…」

『えっと、その…、なんで、私の家の方向、知ってたの…?』

「っ!」



笠松くんは気まずそうな顔をしてそっぽを向いてしまった。よほど言いたくない事情があるのだろうか。まさか笠松くんが私のストーカーをしてるとかそんなことはありえないと思うが、そんな反応をされると余計気になる。

私は笠松くんが話してくれるまで待った。すると暫くしてようやく笠松くんが口を開けてくれた。



「中学のとき、お前、俺にぶつかったこと、あったろ。覚えてないかも、しれねぇけど。そ、それで、それからよく、お前のこと見かけることがあって、だから知ってた」

『えっ…』



あのときのこと、覚えててくれたの?私のこと、ちゃんと知っててくれてたの?見ててくれてたの?私なんかのことを。




『笠松くん、私も覚えてるよ!あのときのこと!』



あ、私今すごい大声で…

うるさいとか思われてないかな。思われてたらどうしよ。


ドキドキしながら笠松くんを見ると、彼は顔を赤くしていた。



「覚えて、たのか…」

『うん。………あ、あの、笠松くんがあのとき走っていっちゃったのは、女子が苦手だったからだよね』

「…あぁ、…その、わりぃ」

『ううん。あのときはちょっとびっくりしたけど、高校入ってからその理由分かったし』



あのときはホントにびっくりした。でも高校に入ってすぐ笠松くんは女子が苦手だと噂で知った。そのとき笠松くんの慌てぶりはそのせいだったのかと納得したのを覚えている。



『あの、笠松くん』



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