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私にはずっと好きな人がいる。それは同じクラスの笠松幸男くん。彼とは中学は違ったが、私は中学の時から笠松くんが好きだった。


私が笠松くんと初めて会ったのは中1の5月。私の中学では部活が強制だったから、私は吹奏楽部に入っていた。吹部は運動部と同じくらいハードで、当然のごとく朝練もあった。

その日、私は朝練に向かうためいつもと同じように家を出た。そしてしばらく歩いて角を曲がりかけたところで誰かとぶつかりそうになった。顔を上げて、ごめんなさい!と頭を下げ、もう一度顔を上げその相手の顔を見た。そして私は恋に落ちた。それが笠松くんだったわけだ。

笠松くんは私と目が合うと顔を真っ赤にして、軽く会釈をして逃げるように去っていった。

これが私と笠松くんの出会い。


それから私は幾度となく彼を見かけた。そしてそのたびにバレないようにジッと見つめていた。

いつの間にやら仲のいい友達にそのことは知れ渡り、みんな私に協力してくれた。何人かの友達が笠松くんを調査?してくれて、彼の名前、部活も知ることができた。(どうやって知ったのかは敢えて聞かなかった)

私は親に言われて私立の中学に通っていたが、その中学に行っていなかったら笠松くんと同じ中学だった。私はそのことをすごく悔やんだ。一時は本気で転校も考えた。それくらい、笠松くんのことが好きになっていた。

高校を決めなければならない時期になったとき、親には私立の女子校に行けと言われたけど、私はそれを拒否し海常高校を選んだ。海常を選んだ理由はただ一つ。笠松くんが海常に行くと思ったから。なぜなら海常はバスケが強いと有名だからだ。

最初は海常を反対されていたけど、必死に説得し、まあ私立だし近いからいいだろう、ということで許してもらえた。笠松くんが海常にいなかったらどうしよう、という不安もあったが、私は彼を信じることにした。

そして待ちに待った入学式。私はそこで笠松くんの姿を見つけた。そのときの嬉しさは今でも忘れない。

これで毎日笠松くんか見れる!私の頭の中はそれでいっぱいだった。でも、その思いはすぐち打ち砕かれることとなる。私は海常がマンモス校だということをすっかり忘れていた。笠松くんとはもちろん同じクラスになれる訳もなく、しかも教室がもの凄く離れてしまった。だから普段の生活の中で彼の姿を見かけることはほとんどなかった。それでも、部活が休みの日にバスケ部を見に行ったりした。でも見学者は数えるくらいしかいなかったし、何度も行けば顔を覚えられてしまう、そう思った私は頻繁には見学に行けなかった。

笠松くんを見ることができるのが週2回ほどという生活が2年続いた。

私は3年になった。始業式の日、どうせまた笠松くんとは同じクラスにはなれないだろう、そう思いながら学校に行った。昇降口にクラス分けの紙が貼られていた。私は大勢の生徒がいるそこに向かって歩き出した。すると前から親友の友美ちゃんが走ってきた。その顔はとても嬉しそうだ。もしかしたら私たちはまた同じクラスになれたのかもしれない、私はそう思った。でも彼女の口からでたのはそんなことではなかった。彼女は私を見て、笠松くんと同じクラスだよ!と叫んだ。

そう、私は3年やでようやく笠松くんと同じクラスになれたのだ。しかも友美ちゃんも一緒だ。もう嬉しすぎて死ぬかと思った。

笠松くんと話せなくてもただ見つめられるだけでいい、私はそう思っている。見てるだけで幸せ。



「それ絶対おかしいよー」



私の前でお弁当を広げながら友美ちゃんはそう言った。

3年になってから1ヶ月経つが、私は笠松くんと一度も会話を交わしていない。というか交わす気がない。友美ちゃんはそれはおかしいと言う。



「好きな人と話したくないとか変だよ!」

『別に話したくない訳じゃないよ。見てるだけで幸せなの』

「ホントあんたって控え目ね」

『そんなことないよ』

「私は好きな人とはちゃんと話したいけど」

『うーん、あれじゃない?私笠松くんと同じクラスになったこと無かったし、だから同じクラスってだけで幸せなんだよ。もし1年から同じクラスだったら話したいって思ったかもしれないよ』

「ふーん、じゃあ今は毎日笠松くんが見れるだけで幸せなのね」



毎日じゃないよ土日は見れないもん、という私の言葉は受け流された。



「あ、そういやあんた今日図書当番よね?」

『うん』

「ひとりで大丈夫?」

『平気だよ。どうせあんまり人来ないし』

「ならいいけど」



図書当番は本当は2人だけど今日はもうひとりの子が休んだから私ひとりになった。たぶん友美ちゃんは私が大丈夫じゃないと言ったら部活を休んでこっちに来てくれると思う。友美ちゃんと一緒がよかったなぁ、なんて思いもしたけど、部活は休んでほしくなかったからそこは我慢。



『最近部活どう?』

「新しく入った子がいるんだけどさ、その子すごくドラムが上手いの!」

『へぇ、そうなんだ。すごいね』



友美ちゃんはとても嬉しそうだ。あ、もう気づいている人もいると思うけど友美ちゃんは軽音部に所属しています。部長でボーカル。友美ちゃんは歌がすごく上手い。ちなみに私は高校では美術部に入りました。



「あ、あと10分しかない。昼休みって長いようで短いよね」

『そうだね。もっと友美ちゃんと話してたかったな』

「もうあんたホントなんなの!」

『えっ?』

「可愛いすぎんでしょ!私が男だったら完全に惚れてるわ。人の悪口は言わないし勉強できるし美人だし」

『えぇっ、私美人じゃないよ!』

「はいはい」



え、あれ、また受け流された。


本日2回目。友美ちゃんはよく私の言葉を受け流す。別に悪気があるわけじゃないんです、きっと。うん、たぶん。



「あ、笠松くん戻ってきた」

『えっ』



友美ちゃんの視線をたどって笠松くんを見つけた。笠松くんは森山くんの教室でお弁当を食べたり、この教室に森山くんを呼んで食べたりしている。今日は森山くんの教室だったようだ。

私は笠松くんを見るといつも胸がキュンとする。もうキュンって音が聞こえるんじゃないかってくらいに。



「名前、笠松くん見つめてるのもいいけど早く授業の準備した方がいいんじゃない?」

『えっ、あっ!』



危ない危ない。ロッカーに教科書を取りに行く前に鐘がなるとこだった。でも今のは決して笠松くんのせいじゃない。私がいけない。笠松くんを見つめてたから。だから笠松くんを
責めないでください。


私はすぐさま教科書を取りに行った。


あ、こんな所に消しゴムが。誰のだろう?



「あっ、名字さんそれ俺の!」

『え、はい』

「ありがとう名字さん!」

『うん』



あれ、なんか赤い顔されました。なんででしょう。



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