05

体育館に入ってすぐ、笠松くんと目が合った。でもすぐに逸らされてしまって、嫌われたんじゃないかと思った。でも笠松くんがまともに目を合わせてくれたことなんてなかったことを思いだし、嫌われたんじゃないと自分に言い聞かせた。



『あ、あの、かさまちゅ、笠松くん!』

「…おう」

『か、かっ、かっこよかったです!』



うわぁ!どうしよう、言っちゃった!しかもさっき笠松くんの名前噛んだし!


笠松くんを見ると、顔を真っ赤にして固まっていた。


直球すぎた?でもかっこよかったのは事実だし。



『あ、あの…』

「……さ、さんきゅ」

『えっ?………うん!』



お礼言われた!嬉しい!



「二人ともこれから時間ある?」

『「えっ?」』



いきなり森山くんにそう聞かれて私と友美ちゃんの声がハモった。友美ちゃんが、なんで?と聞くと、このあとみんなでファミレスにでも行かないか!と言われ私は固まった。


え、みんなで?ってことは笠松くんも一緒ってこと?笠松くんと、ファミレス?



「名前時間あるわよね?」

『え、うん』

「じゃあ決まり!私ちょうどお腹空いてたのよね」



結局私たちはバスケ部の人たちとファミレスに行くことになった。早川くんは宿題があると言って帰ってしまったのでメンバーは私と友美ちゃんと笠松くんと森山くんと小堀くん。

みんなが着替え終わるのを待っている間友美ちゃんに、私に任せて!と言われたが何を任せるのか分からなくて私は首を傾げた。すると直に分かるわよ、とウインクされた。

ん?と思いつつ直に分かるからいいか、なんて呑気に考えた。でもそれがいけなかった。ファミレスに着いてしばらくすると友美ちゃんが本屋さんに行くと言い出し、小堀くんも本屋に用があるから着いていくと言いだし、残りは私と笠松くんと森山くんの三人だけになった。



「名前ちゃんはホントに小さくて可愛いな」

『えっ、そ、そんなことないよ』



この数十分の間に名前ちゃんと言われるようになった。嫌な気はしないが男の子にそう呼ばれるとやはり恥ずかしい。



「笠松もそう思わないか!」

「はあ!?」

『っ!』

「おい笠松、いきなり大声出すなよ。名前ちゃんが怯えてるじゃないか」

「っ…、わりぃ…」

『えっ、いや、私は大丈夫だよ』



そう言うと、なんていい子なんだ!と森山くんに手を掴まれた。森山くんに手を掴まれるのはこれで二回目だ。でも慣れたりなんてしない。やっぱり驚くし恥ずかしい。



「嫌がってんだろ」

『えっ…』



笠松くんが助け船を出してくれた。森山くんは笠松くんに睨まれてスッと手を放した。と思ったらいきなり、あっ!叫びだし、何事かと思っていたら外にいる女の子を指差した。



「あの子はきっと俺の運命の子だ!笠松、俺あの子に声かけてくる!あとは頼んだ。名前ちゃんはちゃんと家まで送れよ?」

「はっ!?お前戻って来ねぇのかよ!」

「俺はあの子と将来の話をしなきゃいけないからな」



そう言うと森山くんはお金を置いて走って店から出て行ってしまった。残されたのは私と笠松くん。笠松くんと二人きり。



『も、森山くんて、いつもああなの?』

「まあ…」

『そう、なんだ』



どうしよ話すことないよ。笠松くん窓の外見ちゃってるし。助けて友美ちゃん。そういえば私に任せてとか言ってたよね?あれは嘘だったの?

あっ…。もしかしてもしかして!これ友美ちゃんが仕組んだ?任せてってそーゆーこと?そうなのかな。でも今思い返してみると友美ちゃん森山くんと小堀くんとなんかコソコソ話してた気がする。それはこのことを話してたのか。なんだこれは仕組まれたことだったのか。

あれ?ということは、友美ちゃんが二人に私が笠松くんのこと好きだって言ったってこと?って、じゃないとこれ手伝ってくれないよね…。でもまあ、森山くんと小堀くんならいっか。誰にも言わなそうだし。



「名字」

『うっ、はい!』



はっ!今変な声出ちゃった!恥ずかしい!なんだコイツとか思われたりしてないかな思われてたらどうしよう…。



「えっと、帰らないか?ふ、二人だけだし…」

『っ、そう、だね…』



二人が嫌ってことだよね。私といてもつまらないもんね。私友美ちゃんみたいに話題豊富じゃないし。笠松くんに嫌な思いさせちゃったな。



「家まで送る」

『えっ、あ…、えっと…、私寄りたいとこあるからいい』



これ以上笠松くんに嫌な思いさせたくないし、迷惑もかけたくない。きっと笠松くんはひとりで帰りたいと思う。私がいたらいろいろ気使わせちゃうだろうし。



「どこ、行くんだ?」

『えっ……………、えっと…、や、薬局』



ふと洗顔がなくなりそうだと思い出しそう言った。笠松くんは何かを考えているようで、何も言わない。



『……』

「よ、夜道は危ない…、から、俺も付き合う」

『………えっ?』

「いや、その、俺は店の前で待ってるから、だから…」



送ってくれるの?私と二人は嫌なんじゃないの?それとも気使ってくれてるだけ?


笠松くんが何を考えているのか私には分からない。だって私は笠松くんじゃないから。



『まだ8時前だし、大丈夫だよ。笠松くんは先に帰って休んで?』

「………いや、でも」

『ホント、大丈夫だから』

「……お、俺といると、気まずいからか?」

『えっ?………気まずいなんて、思ってないよ?だって私…』

「……?」

『あ、えっと、なんでもない。で、でも、笠松くんといるの、気まずいなんて、思ってないから…』

「なら、送っていく」

『っ……じゃあ、お願いします』



そのあとファミレスを出て駅の近くの薬局に向かった。笠松くんとはほとんど会話はなかった。

薬局に着くと笠松くんが店の前にいると言ったから急いで洗顔を買って店を出た。笠松くんは、早かったな、と言って一瞬だけ私を見て、それから歩き始めた。

薬局から駅までは歩いて5分くらいだからすぐに駅に着いた。お互い無言のままホームで電車を待って、電車が来て乗車した。金曜日だからなのかいつもより人が多い。満員電車だ。

私たちは人の波に流され、真ん中の方へ押しやられた。背が高い人は高い吊革にも手が届くが私みたいな小さい人は届かない。よって私は足だけで電車の揺れに耐えなければいけなくなった。ちらっと笠松くんを見ると彼は吊革に掴まっていた。さすがバスケ部。笠松くんはバスケ部の中では小さい方だけれどやはり世間的には大きい。

というか満員というだけあって笠松くんとの距離が近い、ほぼゼロだ。笠松くんは私に気を使ってなのか少しでも距離を取ろうとしているようだが電車が揺れるたびに密着してしまう。



『……』



笠松くんにくっつけるのはそれなりに嬉しいけど心臓が持たない。さっきから心臓が鳴り止んでくれない。



『きゃっ…』



いきなり電車が今までにないくらいに揺れた。私はバランスを崩して笠松くんの方へ倒れ込んでしまった。恥ずかしくて顔を上げられないでいると頭上から、大丈夫か?と聞かれた。そんなことを言う人は笠松くんしかいない。私は、ごめんね、と言いつつできるだけ笠松くんから離れた。



「俺に掴まってろ」

『えっ?』



顔を上げると真っ赤な顔の笠松くんと目が合う。私は小さくうなずき笠松くんの制服の裾を掴んだ。さすがに腕に掴まるということはできなかった。

しばらくして私たちが降りる駅に着き、私は掴んでいた裾をパッと放して笠松くんにお礼を言った。笠松くんは一瞬止まって、別に…、と言ってまた歩き始めた。

私は笠松くんの後ろ姿を見つめながら思った。やっぱり彼が好きだと。独占したいまでとは思わないがいつも一緒にいられたらとは思う。このまま家に着かなければいいのに。



『笠松くん…』

「なんだ」



小さく呟いたからまさか聞こえてるなんて思わなくて思わず足を止めてしまった。笠松くんも私と同じように足を止める。



『えっと……』



呼んだだけ、とかダメだよね。さすがに。今日はありがとう、これも違うな。それは別れるときに言うべきだ。



『あの、………公園、寄らない?』



自分でも何を言っているのかと思った。気付くと私は公園を指差しながらそう言っていた。

今のはなかったことに、そう思って口を開こうとしたら笠松くんに先を越された。



「おう…」

『えっ?』



おうって、いいってこと、だよね?それって、まだ私といてもいいってことなのかな。そうだったら嬉しいな。


私たちは公園のベンチに腰掛けた。はいいものの、二人の間に会話はない。お互い無言を決め込んでいる。



『……』

「……」



誘っといて何も言わないとか最低だ私。なんで公園に寄ろうなんて言ったんだろう。バカだ。



「喉、渇かねぇか?」

『えっ、うん』



緊張で口がカラカラです。



「なんか買ってくる」

『あっ…』



そう言うと笠松くんは近くの自販機に走っていった。



『……』



私の分も買ってきてくれるのかな?笠松くんに限って自分だけってことはないと思うし。ましてや二人で一本ということもないだろうし。



『っ…』



笠松くんが戻ってきた。手には二本のペットボトルが握られている。



「お茶とアクエリ、どっちがいい?」

『えっ、あっ、笠松くんはどっちがいい?』

「どっちでも…」

『…じゃあお茶で』

「おう」



笠松くんからお茶を受け取りお金を払うために鞄に手をかけた。そしたら笠松くんが、金はいい、見学来てくれた礼だ、と言った。



『えっ、なんで笠松くんがお礼するの?お礼するのは私だよ。見学させてくれたんだから』

「……見学に来てくれたのは、嬉しかった。だから、いいんだ」

『っ…』



それ、どういう意味?友達だから?それとも…


笠松くんがまさか私のことなんて、と思いつつどこかで期待している自分がいる。公園内は暗いため笠松くんの顔色をうかがうことはできない。


もしそーゆー意味じゃないとしても、少しは可能性あるのかな。嫌いな人が見学に来て嬉しいなんて言わないだろうし。私、頑張ってみてもいいのかな?



『あのね、笠松くん』




_____
05




back






「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -