それは体育の時間に起きた。その日は男女ともに体育館でバスケをやっていた。私の彼氏である笠松くんはバスケ部の主将でドリブル、シュートをする度に歓声を浴びていた。それに対して私は運動音痴でバスケなんて全くできたくて、転けてばかりだった。
そして事件は起きた。パスが自分の方に来てそれをジャンプして取ろうとした私は見事にボールをキャッチできたものの、着地に失敗し足を捻ってしまった。途端に近くにいた人たちが集まってきて心配させては悪いと思った私は勢い良く立ち上がった。でも足の様子は思ったより酷く私は再び地面に尻を着いた。
「名前ちゃん大丈夫!?」
『うん、なんとか』
「保健室行かないと」
私が一緒に行くよ、そう言って肩を貸してくれた友達。だけど歩き出そうとしたときこちらに向かってくる笠松くんが視界に入った。笠松くんは私に近づいてきてそのまま私の肩を抱いた。えっ、と思ったときにはもう私の体は宙に浮いていて、みんなの冷やかすような声でやっと自分がお姫様だっこされているんだと気がついた。
『か、笠松くん…、恥ずかしい…』
「いいから黙って掴まってろ」
私の言葉は聞き入れられなかった。私は笠松くんの言葉に従い彼の首に手を回した。そして冷やかしの声を背中に浴びながらお姫様だっこされたまま体育館を出た。
「足大丈夫か?」
『う、うん』
顔が近過ぎて笠松くんの顔を見ることができない。笠松くんはいつもと変わらないような声で話していて、こんな状況なのに恥ずかしくないのかな、と思った。だけどちらりと盗み見た笠松くんの耳は驚くほど赤くて、ちょっと安心した。
きっと笠松くんの方が恥ずかしかったはずだ。みんなの前で私をお姫様だっこしたんだから。
『笠松くん、ありがとう』
「っ、おう…」
『でも、やっぱりちょっと恥ずかしかったな。みんなの前だったし』
「それは俺も…。でも気付いたら体が動いてたっつーか…」
『ふふっ、それちょっと嬉しい』
「ちょっとか?」
『ううん、すごく』
笠松くんの目を見て笑うと笠松くんも恥ずかしそうに笑った。
『きっと当分みんなに冷やかされるね』
「そう、だな」
『でも笠松くんのことで冷やかされるのは嬉しいかも』
「っ、なんだよそれ」
『だってそう思ったんだもん』
笠松くんは口ではそう言いつつも顔は嬉しそうでそれを見てこっちまで嬉しくなった。
『笠松くん』
「ん?」
『だいすき』
「っ!」
この日一番、笠松くんの顔が真っ赤に染まりました。