『笠松くん、お願いがあるんだけど』
「なんだ?」
『数学、教えて欲しいの』
「あぁ、そういやお前数学苦手って言ってたな。俺でよければいいぞ」
もうすぐテストなのに数学が全然わからなくて困っていたとき、数学が得意な彼がいたことを思い出した。
昼休みに笠松くんに数学を教えて欲しいとお願いすると彼はすぐに良いと言ってくれた。
『今日の部活自主練だよね。その後とか空いてる?』
「あぁ」
結局バスケ部の自主練が終わったら数学を教えてもらえることになった。
私はバスケ部のマネージャーをしている。だから放課後、バスケ部のみんなが自主練するのをじっと見つめていた。
「名前ちゃん!今の俺のシュート見てた!?」
『え、ごめん見てない』
「なんてことだ!」
「うるせぇよ」
「だって笠松、今の俺の完璧なシュートを名前ちゃんが見てなかったんだぞ!」
「だからなんだよシバくぞ!」
っていいながらシバいてるけど…。笠松くんは手が早いなぁ。
『笠松くん、練習何時に終わる?』
「あと30分待ってくれ」
『りょうかい』
30分かぁ長いなぁ、なんて思ってたけど練習を頑張るかっこいい笠松くんを見てたらあっという間に過ぎた。
『お疲れさま』
「おう。数学教室でいいか?」
『うん、いいよ』
みんなとお別れをして笠松くんと教室に移動した。誰か残ってたりするかなぁ、なんて思ったがそんなことはなく、教室は空っぽだった。とりあえず適当な場所に座り数学の教科書を広げる。
「どっから教えればいいんだ?」
『この辺かなぁ』
自分の苦手なページを開いて笠松くんに見せるとえっ?という反応をされた。どうしたのかと思って聞くとそこはすごく簡単なところらしい。
『バカでごめん…』
「いや、お前できないの数学くらいだろ?だったらいいんじゃねぇか別に」
『そうかなぁ、でもここ簡単なところなんでしょ?』
「俺にとってはな」
笠松くんは数学が得意だ。だからその笠松くんが簡単だというところはもしかしたら他の人からしたら難しいところなのかもしれない。私はそう思うことにした。
「ここの公式は分かるか?」
『分かんない』
「公式からか、なら公式さえ理解できれば大丈夫だな」
笠松くんにそこの公式を教えてもらってある程度問題が解けるようになったところで練習問題をやることになった。
『……』
公式は分かるようになったけど問題が違うと分からなくなる。
『笠松く…』
分からないところを聞こうと思って顔を上げたら笠松くんと目が合った。てっきり私のノートを見ているものだと思っていたから笠松くんと目が合ったことに驚いた。
「っ、悪い…」
『えっ?なんで謝るの?』
「いや、なんつーか、その………、見てたから」
『……私を?』
「っ…、おぅ…」
笠松くんは小さな声でそう言った。下を向いているから分かりづらいけど顔が赤い。
『私のこと見てて面白い?』
「そう言う訳じゃねぇけど……。そんなじっと見ることねぇし、こーゆー機会がねぇと…」
『なんで?付き合ってるんだし見てもいいじゃん』
「そーゆー問題じゃなくて、」
『じゃあどーゆー問題?』
「……緊張すんだろ」
『っ…』
付き合って結構経つのにまだ顔見るだけで緊張してくれるんだ。笠松くんらしいな。
『笠松くん、好き』
「はっ!?いきなり何言って…!」
『好きだなって思ったから。言っちゃダメだった?』
「ダメじゃねぇ、けど…」
『じゃあいいじゃん』
「っ、もういいからさっさと続きやれ」
『はーい』
「…名字」
ノートに視線を移したところで名前を呼ばれた。まだ何かあるのかな、と思いつつ顔を上げたら一言。
「俺も好きだ」
そういうのは反則だってば。