「お前、腹痛ぇのかよ」
生理痛がひどくてお腹を押さえていたら火神がそう言ってきた。私は、うん…と返しながら机に突っ伏した。
「拾い食いでもしたんじゃねぇか?」
『そんなことしないよ、あんたじゃあるまいし』
「俺は拾い食いなんてしねぇよ!」
『あー、はいはい。そうですかー』
「……」
火神が黙ったから顔を見てみると、ポカンとした顔でこちらを見ていた。どうやら私の対応がいつもと違うことに疑問を持ったらしい。
「なんだよ、そんなに痛ぇのか?」
『んー』
「大丈夫かよ」
『んー』
「それどっちだよ」
『肯定』
生理のときはイライラするって言うけど、火神と話してると落ち着く。なんか痛みが少し和らいだ気がする。
『火神ー、なんか面白い話して』
「はあ?いきなりそんなこと言われても無理だろ」
『じゃあいいや。手貸して』
「は?手…?」
火神は意味が分からないといった顔をしながら私に手を差し出した。
私は火神の手を掴んで、自分の頬に当てた。
『はー、あったかーい』
「何やってんだよ」
『え、火神の手温かいから』
「答えになってねぇ」
『いいじゃん。…………あ、痛たたたた』
さっきまで落ち着いていたのにまたお腹が痛くなった。火神は、大丈夫かよ、と言いながら心配そうに私の顔を覗き込んでいる。
『火神助けて』
「ど、どうすりゃいいんだよ」
『お腹さすって』
「…そんなんで治んのかよ」
『治んないけど楽にはなる。……生理だし』
私の言葉に、火神が一瞬固まった。そしてしばらくした後、生理?と呟いた。
『そうだよ、生理だよ』
「…………………っ!」
今やっと理解したらしい火神は目を見開いた。そして、早く言えよ…と小さく呟いた。
早く言えよって、普通言いにくいだろうが。しかも火神だし。
「腹、さすればいいんだろ?」
『え?………うん』
火神の手はとても大きくて温かくて、痛みはほとんど無くなった。今日ばかりはちゃんとお礼を言わなければいけない。
私が、ありがとう、と言うと火神は少し照れながら、別に…と言った。
『火神の手、魔法みたい』
「は?」
『だって、お腹痛いの治ったもん。火神って魔法使いだったんだね』
「違ぇし」
『えー、魔法使いだよー』
「誰が魔法使いなんですか?」
後ろから声がして振り向くと、サンドイッチと野菜ジュースを持った黒子くんが立っていた。
そういや黒子くん、さっきお昼買いに行ったんだっけ。
『黒子くん、火神は魔法使いなんだよ。火神に撫でてもらったらお腹痛いの治ったの』
「そうなんですか。ボク火神くんが魔法使いだなんて知りませんでした」
「だから違ぇつってんだろ」
『えー、絶対魔法使いだよー』
そう言って火神を見ると、分かったから飯食わせろ、と言って大量のパンを机の上に置いた。
あいかわらずすごい量だなぁ…。
「名字さんは食べないんですか?」
『あー、うん。ちょっと食欲なくて』
「ちゃんと食わねぇと倒れんぞ」
『そんな簡単に倒れないよー』
てかマジで食欲ないんだよこのやろー。
目の前でパクパクとパンを食べる火神が羨ましい。
いいよなぁ、火神は…、いつでも食欲があって。
そう思いながら火神を眺めていると、ほら、とメロンパンを差し出された。
「お前メロンパン好きだろ?」
『好きだけど、今は食欲が…』
「いいから食え」
火神がメロンパンを押しつけてくるから一応、ありがとう、と言って受け取った。
うーん………、一口くらいなら、いけるかな?
袋を開けてとりあえず匂いをかぐ。それだけでもうお腹いっぱいになった気がする。
横を向くと火神と目が合って、彼の目は食べろと訴えている。
『はぁ…』
私はため息をつきながらパンにかじり付いた。
うん、おいしい。でももう十分だ。
『ごちそうさま』
「は?もういらねぇのか?」
『うん』
「じゃあ寄こせ」
『え?でもこれ食べか…』
気付くと手からパンが消えていて、その行方を探すとすでに火神の口の中だった。
『え………』
間接………
いや、恋人同士だし別に問題ないんだけど、でも……
『バカガミ…』
「は?なんか言ったか?」
『なんでもない』
なんだよ、恥ずかしいのは私だけか。ホント無神経なやつ…。
「足りねぇからなんか買ってくるわ」
『あ、だったら私の弁当食べる?』
「え、いいのか?」
『うん、どうせ食べないし』
「じゃあくれ」
『りょうかい』
私がお弁当を差し出すと、火神は嬉しそうに受け取った。
なんか子どもみたい。でも私はいつもコイツに元気をもらってるんだなぁ。今日だって……
『火神、ありがとね』
「は?なにがだよ」
『ううん、なんでもなーい』
これからも、ずっとずっと火神といられたらいいな。
落ち着きます
(火神くん、その玉子焼き僕にもください)
(は?やるわけねぇだろ)
(いいじゃん、それくらい)
(お前の作ったもん他の男に食わせたくねぇんだよ)
(えっ……!)