バレンタイン、それは年に一度の女の子が輝く日。みんな目をきらきらとさせて好きな人を見つめる。そしてバレンタインは男の子がチョコをもらえると期待してそわそわする日でもある。そんなこの日、私も他の女の子同様好きな人を見つめていた。

私は日向くんのことが好きだ。一年の時からずっと。去年のバレンタイン、勇気を出してチョコを渡そうとした、でもダメだった。日向くんに話しかけることには成功したけどチョコを渡すまでには至らなかった。でも、今年は違う。絶対にチョコを渡すんだ。一年の時とくらべて少しは日向くんとまともに話せるようになったし知り合いから友達にはなれたと思う。だから今年は絶対に成功させる。



「名字、なんか俺に渡すものない?」

『えつ?』



いきなり声を掛けられて振り返るとクラスの男子。渡すもの、というのはチョコのことだろうか。でもあいにく私は日向くんへのチョコと友達に渡すチョコしか持っていない。



『ごめん、チョコ余ってないんだ』

「いや、あまりじゃなくて本命」

『えっ?』

「あれ?名字って俺のこと好きじゃない?」

『っ!好きじゃない!』



一体何を言うんだこの人は、なんて思っていたら目の前の彼はクスクスと笑いはじめた。そして笑いながらごめんと謝った。何が?と聞くとさっきの冗談、と一言。



『えっ』

「ごめんごめん、どんな反応すんのかなって思って」

『っ、びっくりしたよ』

「でもあわよくばチョコもらえるんじゃないかって期待したけどな」

『そんなにチョコほしいの?』

「おう、名字のチョコ限定だけどな」



平然とそういう彼。私は固まった。今のがどういう意味かなんて考えなくたって分かる。私はそこまでバカじゃない。でも、私には好きな人がいる。



「そんな顔しないでよ名字。お前に本命がいることくらいちゃんと分かってるからさ。俺もう諦めてるし」

『えっ…!知ってるの?私の本命…』



恐る恐るそう聞くとずっと見てたからと返された。自分の顔が熱くなるのが分かる。そんなことを言われるといくら好きな人じゃなくたってドキッとする。



「そーゆー顔されるとヤバいんだけど」

『えっ…』



ドキドキしちゃいけないって思ってるのに、ドキドキしてしまう。私は日向くんが好きなのに。なにをやってるんだ一体。



「名字」

『っ…』



目の前の彼ではない声に呼ばれた。顔を見なくたって分かる。この声は日向くんだ。横を見ると案の定日向くんが立っていた。しかもなんだか不機嫌そうだ。どうしたのだろう。



『おはよう、日向くん』

「おう」



日向くんは不機嫌そうな顔のまま私の目の前の彼を睨んだ。睨まれた彼はというと、なぜか面白いものを見たかのような笑みを浮かべている。日向くんはそれを見てもっと不機嫌そうな顔になるし、私だけこの状況についていけていない。



『あ、あのっ…』

「そんな顔すんなよ日向、ちょっとからかっただけだって」

『えっ?』

「ごめん名字さん、さっきの全部嘘だから」



そう言って彼は言ってしまった。なんだ、さっきのは全部私をからかうための嘘だったのか。本気にしてしまってちょっと恥ずかしい。



「名字、お前、本命いるのか…?」

『えっ…う、うん。いる、よ…』

「そうか…。チョコ、渡せるといいな」

『っ、あっ…』



日向くんは私にそう告げて先ほどの彼と同じように去っていった。残された私はチョコを渡そうと思っている本人に応援されたショックでしばらく動けなかった。


日向くんは自分が本命だなんてこれっぽっちも思っていない。私が好きな人にチョコを渡せたらいいと応援してくれている。友達として。そんな人にチョコを渡すことなんて…。

ううん、ダメだ。今年こそ渡すって決めたんだ。こんなことくらいでくじけちゃだめ。














放課後、私は日向くんを呼び出すことに成功した。去年から考えたらこれだけでも大きな進歩だ。あのときは話しかけることしかできなかったから。ここまでくればあとはチョコを渡すだけ。



『あ、あの、日向くん』

「チョコ、渡せたか?」

『えっ…?あ、いや……、まだ』

「っ、いいのかよ。そいつもう帰って、」
『チョコは!渡すよっ!』

「っ…!」



大きい声を出したせいで日向くんを驚かせてしまった。申し訳ない。だけど、私の話を聞いてほしい。



『あのね、日向くん……』

「……」



今年こそチョコを渡すって、好きだって伝えるって決めたんだ。がんばれ私。



『す、好きです!受け取ってくださいっ!!』



言えた。ちゃんと、言えた。ずっと言いたかった。やっと、伝えることができた。


日向くんが今どんな顔をしているのか気になるけど、怖くて見ることができない。



「名字…」

『っ…、えっ…?』



名前を呼ばれてそのまま勢いで顔を上げてしまった。そして日向くんの顔を見て私は固まった。だって日向くんは顔を真っ赤にしていたから。

なんでそんな顔をするのか、考えると期待してしまう。だけどやっぱりそういうことなんじゃないかと思って、もう一度日向くんを見た。



『っ…』



やっぱり日向くんは恥ずかしそうに顔を赤く染めていた。



「…俺も、名字が好きだ」

『っ…!』



欲しかった言葉がもらえて、嬉しくて、涙が溢れた。日向くんはそんな私を見て慌てだして、そんな反応をされた私まで慌てた。そのあとすぐに嬉し泣きだと伝えると日向くんは手で顔を隠してしまって、なんだかおかしくて小さく笑うと笑うなよと怒られた。だけどそんな姿までかっこいいと思ってしまい、私は心底日向くんに惚れているのだと思った。



『日向くん、大好き』

「っ………、俺も」





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