知らなかった。私は知らなかった。明日が日向くんの誕生日だなんて。そりゃそうだ。だって私は日向くんの彼女でもなんでもなくて、ただのマネージャーなんだから…。
日向くんの誕生日を知るには本人に聞くか日向くんの誕生日を知ってる人に聞くかしかない、けど私はどっちもしていない。日向くんと同じ部活というだけで嬉しくて誕生日を知りたいなんて思ったことなかった。というかそんな考えがそもそもなかった。私は今もの凄くそれを後悔している。
『プレゼントないよー…』
明日までに用意するとか難しいし日向くんが何好きなのか分からないし。あ、戦国武将?でも誰が好きなのか知らないよ!てかもうみんな持ってるかもしれないし。どうしたらいいんだろう。みんなは何かあげるのかな。
『もっと早く教えてほしかった』
まあ教えるも何も私がたまたま日向くんの話をしてる小金井くんの話を聞いただけなんだけど。でももっと早くそーゆー話してほしかった。いや、してたのかもしれないけどさ。
『ホントどうしよ』
彼女とかだったらプレゼントは私だよ、なんてことが言えるんだろうけど私は彼女じゃないしもしそんなことしたらプレゼントじゃなくてゴミ貰った気分になるよね、うん。
日向くんの好きなものってなんだろう。戦国武将以外思いつかないよ。
おめでとう、だけでもいいんだけどやっぱり好きな人には何かあげたいし少しはそれで意識されるんじゃないかって、うわぁダメだ私下心丸出し。
でも何かあげたい。
『あっ』
そうだ、日向くんの言うことなんでも聞いてあげるとかダメかな。でも私だったら結構嬉しいなそれ。だって誰かが自分の言うことなんでも聞いてくれるなんてこと滅多にないし。よし。
『それでいこう』
なんかあっさりプレゼント決まっちゃったぞ。悩み解決。お風呂入って寝よう。
朝部活に行くと日向くんの誕生日の話で盛り上がっていた。もちろん話の中心にいるのは日向くん。
てか私来るの遅っ!もっと早く来るべきだった。一番におめでとうって言いたかったのに。
『日向くん、誕生日おめでとう』
「お、おう、サンキュー。そういやお前、俺が誕生日だって知ってたのか?」
『あ、いや……、昨日知りました』
あはは、なんて笑うと、そうか、と言われた。あれ?もしかして怒ってる?主将の誕生日くらい知っとけ、とか思ってる?クラッチタイム入っちゃう?
『えっと、ごめんね?…あ、でもね!とっておきのプレゼントがあるの!』
「えっ…、なんだよ」
『それは放課後までのお楽しみ!』
とっておきとか言っちゃったけど大丈夫かな。これ喜んでもらえるかな。私にとってとっておきなだけで他の人にとってはしょぼいプレゼントだったりしない?日向くんホントにすごいものだと思ってめっちゃ楽しみにしてたらどうしよう。一応ハードル下げとくべきかな。
『えっと、やっぱりあんまり期待しない方がいいかも』
「は?どっちだよ」
『いや、私にとってはすごいプレゼントなんだけど、日向くんにとってどうかは分からないし』
まあ軽く期待する程度でお願いします。そう言って日向くんを見つめるとおう、と返された。これで大丈夫だろう。
日向くんは私になに頼むのかな、そんなことを考えていたら一日があっと言う間に終わった。私は帰る準備をして同じくラスの小金井くんと水戸部くんと体育館へ向かった。
『リコちゃんちょっといい?』
「なに?」
みんなが部室で着替えている間にリコちゃんに話しかけ日向くんのプレゼントについて聞いてもらった。
「それ、すごくいいと思うわ!」
『えっ、ホント?』
「うん!」
予想外の返事が返ってきて驚いた。なにそれ、とか言われると思ったのに。でもリコちゃんが言ってるんだから間違いない。私のプレゼントは正解だったのだ。
「日向くん、きっと喜ぶわ!」
『そうかな?だといいけど』
リコちゃんはさっきから満面の笑みだ。それにつられて私の顔もほころぶ。
「練習始めるわよー!」
知らぬ間にみんなが集まっていたようだ。プレゼントのことで頭がいっぱいで全然気がつかなかった。
『ん…?』
なんかすごいみんなに見られてる気がする。日向くん、伊月くん、小金井くん、水戸部くん、土田くん。二年全員がこっちを見ている。
なんだろ、私の顔に何か付いてるのかな。でもそしたら一年生もこっち見るか。じゃあなんだろ。
『えっと…』
「あ、悪い、気にしないでくれ」
「そうそう!気にしないで!」
伊月くんと小金井くんにそう言われて私はそれ以上なにも言えなくなった。あまり納得はできないけど私の顔に何か付いてる訳じゃなさそうだ。気にするなって言ってるんだし気にしないことにしよう。
『ねぇ、リコちゃんは日向くんに何かあげたの?』
「プロテイン」
『えっ…………あ、まあプロテインとか大事だもんね!』
誕生日にプロテイン…。カントクからそれをもらうってなんかすごい強くなれって言われてるみたいで辛いんじゃないかな。絶対言わないけど。さすがリコちゃんていう感じだけど、誕生日にプロテインって、ちょっとキツイものがあるよね。私も人のことは言えないけど。
……あっ、黒子くん倒れた。
いつものことだが一応駆け寄る。
『黒子くん大丈夫?』
「はい、大丈夫です。すいません」
『立てる?』
黒子くんに手を差し出す。でも黒子くんが私の手を握ることはなかった。
『っ、日向くん!』
いつ来たのかは分からないが真横に日向くんがいて、黒子くんは日向くんの手を掴んでいた。
「黒子、大丈夫か?」
「はい、大丈…、キャプテン、言葉と表情が合っていません」
『えっ?』
チラッと日向くんを見ると彼の顔には青筋が浮かんでいた。
「気にすんな」
「…はい」
え、私気になるんですけど。なんでそんなに怒ってるんですか。黒子くん疲れちゃっただけじゃないですか。いつものことだよねこれ。
日向くんは黒子くんを立たせるとまた練習に戻ってしまった。私は黒子くんを見つめたが黒子くんは微笑むだけだった。
「今日の練習終わり!」
リコちゃんの一言で部活は終わったのだが今日はいつもより十五分程早い終わりだ。私は不思議に思ってリコちゃんに聞いてみた。
『リコちゃん、なんで早く終わらせたの?』
「日向くんのためよ」
『えっ?』
どういうこと?そうリコちゃんに聞いたけどそれ以上何も答えてくれなかった。
「あ、日向くん来たけど、プレゼント、あげるんでしょ?」
『うん』
あげるって言うのはちょっとおかしいかもしれないけど。
私は日向くんの元に向かった。
『あの、日向くん。プレゼント、なんだけど…』
「おう…」
『私からのプレゼントは、日向くんの言うことをひとつだけ聞くことです』
「………は?」
『ひとつだけ、日向くんのお願いなんでも聞く。だから何かお願いして』
「っ…」
日向くんは何にしようか考えているようで下を向いてしまった。
何お願いされるんだろ。鞄持ちとか?でも日向くんが女の子にそんなことお願いするとは思えない。
「名字、なんでもいいって言ったけど、嫌だったら断ってくれ」
『え、断らないよ?』
「いや、これはお願いされてはいって簡単に言えるものじゃねぇ。だから、嫌なら断ってくれ」
『?…………うん、分かった』
そんなすごいお願いなのかな。というか断られるかもしれないお願いなんて止めて他のにすればいいのに。
「名字」
『ん?』
「付き合ってくれ」
『………………えっ、…っ』
どこに?なんてベタな間違いしない。これはそーゆー付き合ってじゃなくて恋人になってくれっていう意味の方だ。私だってバカじゃないからそれくらい分かる。分かる、けどさ…。
『本気で言ってるの…?』
「あぁ。…だから、嫌なら」
『嫌じゃない!』
「えっ…」
日向くんはホントに本気だ。顔を見れば分かる。真剣な顔だし真っ赤だし。
『私、日向くんのこと』
「っ、ちょっと待ってくれ!…違ってたらめちゃくちゃだせぇけど、それは俺から言わせてくれ。…………名字、お前が好きだ!」
『っ…!………私も、好き!』
「ヒューヒュー!」
「日向ナイス!」
『「っ!」』
するとみんなが騒ぎながら現れた。そういえば今まで何をしていたのだろうか。
「日向やったな!」
「おい待てどーゆーことだ!」
「私がみんなを止めたのよ。名前が日向くんにあげるプレゼント聞いてたから」
『え、じゃあ日向くんが私に付き合ってって言うって知ってたってこと?』
「それは知らなかったわよ。でも日向くんなら何かすると思って」
「ま、まさか俺が名字を好きだって知ってたのか!?」
「日向どころか名前ちゃんが日向のこと好きだってことも知ってたよ!」
『えっ!?』
どうやら私たちが両想いだということは二年全員と黒子くんは知っていたらしい。私たちはそんなに分かりやすかったのか、恥ずかしい。そして黒子くんさすが。一年で知ってたのは君だけだよ。
「名字」
『えっ、はい』
「その、なんだ…、えっと……、俺は頼りねぇかもしんねぇけど、これかはなんでも言ってくれ」
『えっ、うん』
「おいおい、それチームメイトに言う言葉じゃないか?」
「彼女に言う言葉じゃないよなー」
「なっ!いんだよ!」
『うん、日向くんらしくていいと思う』
「そ、そうか?」
『うん!』
そう言って笑うと、日向くんも恥ずかしそうにしながら笑ってくれた。それを見て、私はこの人の彼女になれなんだなと思って、恥ずかしいようなくすぐったいような気持ちになった。
日向くん、これからはもっともっと日向くんのこと教えてね。
予定と違うけどしあわせです
(名字、これからは名前で呼んでもいいか?)
(えっ、うん…。じゃあ私も名前で呼ぶね。じゅ、じゅんぺい、くん)
(っ!……名前)
(っ!(想像以上に恥ずかしい!))