もうすぐ黒子くんの誕生日。黒子くんは何が欲しいのだろうと必死に考えたけど何も思いつかなくて、どうせならいつも使える物がいいと思い、プレゼントはタオルと部活用のTシャツにした。この二つならたぶん喜んで使ってくれるだろう。
「名字さん!お待たせしました」
いつもの待ち合わせ場所で待っていると黒子くんがやってきた。
『黒子くん、お疲れ様。疲れてるんだから走ってこなくても良かったのに』
「早く名字さんの顔が見たかったので」
そんなことを真顔で言ってのける黒子くんを本気で尊敬する。私だったら絶対顔が真っ赤になるに違いない。うん。
『わ、私も早く黒子くんに会いたかったよ』
ほら、赤くなった。見なくたって分かる。だって黒子くん笑ってるし。
「名字さん、顔真っ赤ですよ?」
『うっ、知ってる…』
「そうですか」
あ、また笑った。
ちょっと悔しいけど私にはどうすることもできない。そもそも私が黒子くんにかなうはずがない。
「名字さん、今日もマジバ寄っていいですか?」
『うん』
黒子くんと別れて家に着いてから私は必死で考えた。でも全然思いつかない。黒子くんを、照れさせる方法。
いつも私ばっかり照れていて黒子くんだけ照れないなんて不公平だ。なんとしても黒子くんを照れさせたい。
結局一晩中考えて思いついた方法は一つだけ。しかもこの方法で黒子くんが照れるかどうかは微妙なところだ。そもそもこの方法は私も恥ずかしい。もしかしたら実行できないかもしれない。
『でも…』
なんとしても黒子くんが照れるところがみたい!
私の頭の中はそのことでいっぱいだった。
黒子くんの誕生日当日。私はこの日にあの作戦を実行すると決めていた。というかこの日にしか実行できない気がする。何せプレゼントというものを利用するのだから。
作戦を実行するのは部活が終わったあとと決めている。その方が人もいなくてちょうどいい。
いつものように待ち合わせ場所で待っていると黒子くんがやってきた。
『黒子くん!誕生日おめでとー!!』
「えっ…。ありがとう、ございます」
『え、何その反応』
「いえ、あの、忘れられてると思っていたので」
『えっ!?そんなわけないじゃん!遅くなったのはあれ、教室でプレゼント渡すの恥ずかしかったからだよー!』
「そうだったんですか。安心しました」
黒子くんはにっこり笑った。それはそれは天使のような顔で。
「あの、プレゼント見てもいいですか?」
『もちろん!』
黒子くんはどんな反応するんだろう。喜んでくれるかな。
「名字さん、ありがとうございます。両方部活の時に使わせてもらいます」
『うん!』
どうやら喜んでくれたようだ。
だが私が用意したプレゼントはそれだけではない。もう一つ用意している。それが黒子くんを照れさせるものなのだが、うーん、どうしよう。
これはなかなか難しい、というか恥ずかしい。
今の私は平静を装っているがかなり緊張している。
『あ、あの、黒子くん』
「はい」
『えっと、その…』
「なんですか?」
うっ、なぜそこで首を傾げるんだ。か、可愛すぎる。なんでそんなに可愛いの君は!
黒子くんは、名字さん?なんて言いながら心配そうな顔で私を見ている。
『えと、その、ね…。じ、実は、もう一つプレゼントが、あるんだけど…』
「え、なんですか?というか名字さん、顔が赤いですけど大丈夫ですか?」
『だ、大丈夫大丈夫!なんでもないから!』
私が照れてどうするんだ。これじゃあ意味がないじゃないか。
黒子くんを照れさせるって決めたんだから。
「それで、もう一つのプレゼントってなんですか?」
黒子くんの方から言ってくれた。これは助かる。
私は意を決して黒子くんを見つめた。
『黒子くん』
「はい、……っ!」
目の前には驚いた顔の黒子くん。それもそうだ。だってまさか私がキスするなんて思いもしなかっただろうから。
私が黒子くんを照れさせるために考えた方法はキスだった。それもただのキスじゃない。不意打ちのキスだ。目閉じて、なんて言ったらキスだとバレる可能性があってあまり驚かないかもしれない。でも不意打ちなら絶対に驚く。私はそう考えた。
『びっくり、した?』
「は、い。とても…」
黒子くんの顔は今まで見たことがないくらい赤くなっている。こんな黒子くんを見るのは初めてだ。
『私いつも黒子くんに照れさせられてるからさ、今度は私が黒子くんを照れさせようと思って。あ、でもこれプレゼントつて言わないね』
私がそう言って笑うと黒子くんは、そんなことありません、と言って私を見た。
『えっ…?』
「あの、ボク、嬉しかったです。名字さんからそういうことされるの初めてだったんで…」
『っ…』
恥ずかしくて黒子くんの顔が見れない。たぶん黒子くんの顔は赤くなってあると思うけど、私の顔はそれよりももっと赤いと思う。
正直キスしたあともの凄く恥ずかしかった。でも必死に我慢して、だからその我慢した恥ずかしさが今いっぺんに来ている感じだ。
「大丈夫ですか?」
『えっ…、だ、だだ、大丈夫じゃないよっ!!』
「ですよね、だって顔真っ赤ですし」
『っ!み、見ないで!』
そう言って下を向くと手を掴まれた。何事かと思って顔を上げるとそのまま勢いよく手を引かれて、気づいたら黒子くんの腕の中にいた。
『えっ…』
「これなら名字さんの顔見えませんよ」
『っ…、そうだけど、でも…』
「でもなんですか?」
なんでもない、黒子くんの肩に顔を埋めながらそう言うと黒子くんは笑った。
私はこんなに恥ずかしいのに、なんで笑っていられるんだろう。やっぱり私は黒子くんにはかなわないや。
『黒子くん、好き…』
黒子くんの腕の中で私はそう呟いた。
かないません
((っ…、それは反則です))