今日の朝起きて私が最初に思ったこと、それは、お腹が痛い、だった。トイレに行ってみると案の定生理になっていて、私の気分は一気に下がった。
私は生理になると、貧血でものすごく気持ち悪くなる。だから生理の日はなるべく外に出ることを避けたいのだが、学校を休むわけにはいかない。
私はため息をつきながら服に手をかけた。
学校に着くと、友達が駆け寄ってきた。
「名前おはよー、って、顔色悪いけど大丈夫?」
『あぁ、うん、ちょっと貧血でね…』
そう言えば、あれか、と呟く友達。私はため息をつきながら、そうなの、と返した。
「名前ちゃんおはよー!」
『あっ、おはよう緑間くん!』
「えっ、ちょ!俺無視!?」
『えっ?あっ、ごめん。緑間くんしか見えてなかった』
どうやら高尾くんも一緒だったようだ。私には緑間くんしか見えなかった。
私がそんなことを思っていると、高尾くんが私の顔色の悪さを指摘した。
『いや、ちょっとね…』
「具合が悪いなら保健室に行くのだよ」
『えっ、いや、大丈夫だから』
「大丈夫な顔色ではないのだよ」
「あっ、もしかして…」
『えっ?』
高尾くんがいきなり近づいてきて、何事かと思っていたら耳元で、生理でしょ?と囁かれた。私は、うん…、と小さくうなづいた。
「なんなのだよ」
『えっ、いや、その…』
「真ちゃん、名前ちゃんは大丈夫だから」
「大丈夫ではないのだよ!」
「いやいや、大丈夫なんだって!」
「おい、なにをするのだよ!」
高尾くんは緑間くんの背中を押して教室から出て行った。とりあえず、高尾くんのおかげで助かった。さすが高尾くん。こういうときはものすごく頼りになる。
「ねぇねぇ、名前が生理だって知ったら緑間倒れるんじゃない?」
『えー、さすがにそれはないよー』
「いやいや、絶対倒れるって!だって緑間ウブだもん!」
ケラケラと笑う友達。私は、ちょっと失礼じゃないか、と思いつつ、友達の話を聞いていた。
午前中の授業が終了した。4限が終わる間際にひどい腹痛と吐き気に襲われた私は、そのままトイレに直行した。
吐きはしなかったものの、吐き気はなかなかおさまらない。
「名字、大丈夫か?」
『えっ?あっ、緑間くん』
廊下でばったり緑間くんに会った。彼は私のことを心配してくれているようで、ちょっと嬉しかった。
『ちょっとくらくらするだけだから大丈…』
「っ!名字!」
えっ…
気がつくと私は緑間くんの腕の中にいて、自分が倒れたのだと理解した。
『ごめ…』
「だから朝保健室に行けと言ったのだよ!」
『うん、ごめんなさい…。って、きゃっ!』
私の目の前は緑間くんの胸板だったはずなのに、目の前には彼の顔があって、私は頭が真っ白になった。
えっ、えっ?なんで?
ほとんど回らない頭で落ち着いて考えて、やっと今の状況が分かった。
『ちょ、緑間くん下ろして!』
「おとなしくするのだよ!」
驚くことに、私は緑間くんにお姫様だっこされていたのだ。
さっきから周りの生徒がみんな見てきて恥ずかしい。あっ、今高尾くんいた。
高尾くんが後ろから何か言っているが、よく分からない。まぁ大方冷やかしだろう。
その後保健室に着いたが、先生の姿がなかった。なので、勝手に入らせてもらった。
緑間くんは私をイスに座らせると、どこからか体温計を持ってきた。
え、体温計?
「熱を計るのだよ」
『えっ、いや、あの…』
「なにをしているのだよ」
『いや、だから、その…。そういうのじゃないっていうか…』
「なにを言っているのだよ」
”生理だって知ったら緑間倒れるんじゃない?”
ふと友達の言葉が頭をよぎった。
でもまさか、倒れるだなんて、そんなことあるわけないよね。うん、緑間くんを信じよう。
私は意を決して口を開いた。
『あのね、実は、生理なの』
「…………………っ!」
緑間くんはしばらく考えた後、顔を真っ赤にして目を見開いて固まった。
それを見て、言わなければよかった、と思ったがともかく緑間くんが倒れなくて安心した。
「名字」
『っ!な、なに?』
「すまなかったのだよ」
『えっ!なんで緑間くんが謝るの?ちゃんと言わなかった私がいけないんだよ。…それに、緑間くんが私を心配してくれたの、すごく嬉しかったよ?』
「っ!」
『緑間くん、照れてるの?顔真っ赤だよ』
「っ!うるさいのだよ!」
真っ赤な顔でそんなこと言われても全然怖くない。むしろ、可愛いとさえ思ってしまう。それほど私が緑間くんを好きってことなのか。
『ねぇ、緑間くん、貧血で寒いから、ぎゅーってして?』
「っ!」
『ダメ?』
「……」
緑間くんは無言のまま私に近づき、そのまま私を抱きしめた。
でもその瞬間、保健室のドアが勢いよく開けられた。
「あっ」
『「っ!」』
「た、高尾!!」
ドアを開けた人物は高尾くんでした。そして緑間はものすごい顔で高尾くんを追いかけていきました。
心配する
(高尾!待つのだよ!)
(待てって言われて待つ奴なんていねぇっしょ)
(許さないのだよ!)
(真ちゃんが保健室で抱き合うとこなんて見てないって!)
(っ!)