恋愛というのは難しいものだ。いくら私が相手を想っていてもその相手が私と同じくらい私のことを想ってくれているとは限らない。私は笠松くんのことが大好きだけど笠松くんはそうじゃないかもしれない。もしかしたら好きではないかもしれない。笠松くんの行動を見てるとそう思ってしまう。
笠松くんは私と話すのを避けているように思う。私と目が合うとサッと逸らすし私と話しているときも気まずそうな顔をしている。それで私を好きだと言う方が無理がある。告白は笠松くんからだったはずなのに、私は彼に何かしてしまったのだろうか。それとも付き合ってみたら思っていたのと違ったとかそういうことだろうか。でも付き合い始めてから笠松くんとまともに話していない気がする。それでどうやって私を嫌いになるというのだろうか。告白される前から笠松くんのことが好きだっただけにすごく悲しい。
「罰ゲームだったりしてね」
『えっ…?』
隣で私の話を聞いていた友人がそう呟いた。
罰ゲーム…。
そうは思いたくないが確かにそれだったら納得がいく。笠松くんが私を避けていたわけも、話しているときも気まずそうにしていたわけも。
『そう、なのかな…』
でも、笠松くんは多分真面目だ。そんな彼が罰ゲームで誰かに告白するなんてことするだろうか。そんな罰ゲームは受けない気がする。笠松くんのことはずっと見てきたし他の人よりはよく知っている。ほとんど話したことはないけれど。
「名前、笠松くんに直接聞いてみたら?罰ゲームなのかって」
『……うん』
もしそう聞いてそうだって言われたら私たちの関係は終わる。でも罰ゲームだとしたら早くこの関係を終わらせた方がいいに決まってる。
放課後、私は笠松くんを呼び出した。
「は、話って、なんだ?」
『あの、………罰ゲーム、なの?』
「えっ?……なにが」
『わ、私と付き合ってるの…』
「っ!なんでそうなるんだよ!」
『っ!』
笠松くんが大きな声を出すから驚いた。私と話しているときにこんな大声を出すのは初めてだ。
笠松くんは私が驚いているのに気付いて悪いと一言謝った。
『えっと、罰ゲームではないって、ことだよね?』
「あぁ、ってなんでそんなこと…」
『っ、それは……、笠松くんが…』
「俺が…?」
『そっけない、というか…、付き合ってるのに全然話してくれないし…』
「っ…」
私がそう言うと笠松くんは黙ってしまった。どうやら自覚はあったらしい。しばらくお互い黙ったままでいると笠松くんがようやく口を開いた。
「なんつーかその、悪かった…」
『……』
「お前は知らねぇと思うけど、俺女子が苦手なんだ」
『えっ…』
予想していなかった言葉に私は固まった。笠松くんが女子を苦手としていたなんて全然知らなかった。初耳だ。でもそれじゃあなんで私と付き合っているのだろうか。
疑問に思ったことを笠松くんにぶつけると、苦手であって嫌いではないからだと言われた。納得。
『じゃあさ、笠松くんは女子が苦手だけど、私のこと好きになってくれたってことだよね?』
「あぁ…」
『はぁ…、なんかすごい安心した。笠松くん罰ゲームで私と付き合ってるのかと思ったから』
「っ、罰ゲームで誰かに告ったりとかしねぇよ!」
『うん、笠松くんはそんな人じゃないよね…』
心の中で笠松くんは罰ゲームでそんなことする人じゃないって思っていたけど、私は笠松くんを信頼できなかった。それが少しだけ悔しい。でも、私が笠松くんを信頼できなかったのは笠松くんの態度に原因がある。だから笠松くんを疑ってしまった私だけがいけないわけではないはずだ。
『笠松くん、罰ゲームだなんて言ってごめんね。でもこれからは、私がそう勘違いしないように、もう少し話してほしいな』
「努力する」
『うん。あっ、笠松くん部活だよね、早くいかないと武内先生に怒られちゃう』
「そう言うお前もやべぇだろ」
『あっ!そうだった!』
私は自分の部活のことをすっかり忘れていた。急がないと先生に怒られる、そう思って走り出そうとしたとき、何もないはずの床で滑ってしまい、笠松くんの方へとダイブしてしまった。
『ごめんなさっ…えっ』
転んだ勢いで笠松くんに抱きついてしまったため謝って慌てて離れようとした。そしたら笠松くんに腰を掴まれて動けなくなってしまった。これでは笠松くんから離れられない。
『あ、あの…笠松くん?』
「…お前が転んだのを利用するとかサイテーかもしんねぇけど、今までお前に何もしてやれなかったから…。こんなんで今までの俺の態度が無かったことにできるなんて思ってねぇけど、でも…」
『っ…』
笠松くんの言葉を聞いていて私は彼の手が震えていることに気が付いた。きっと笠松くんは今物凄く緊張しているはずだ。
『笠松くん、ありがとう。もう今までのことはどうでもよくなっちゃった』
「えっ…」
『だって笠松くん、こんなに震えてるのに抱きしめくれてるんだもん』
「っ、震えてるとか、俺だせぇな」
『ううん、そんなことないよ。だって、震えるくらい緊張してんのにこうしてくれてるんでしょ?私は嬉しいよ』
「っ…、おう…」
笠松くんのその言葉にはきっとありがとうという言葉も含まれている。たぶんだけど、なんとなくそんな気がする。
「なぁ、今日の部活、休み…、じゃなくてもいいけど、遅く行くことはできないか?」
『えっ、どうして?』
「……」
そう聞くと笠松くんの顔が一瞬で赤くなった。私は何も変なことは言っていないはず、なのになぜ。
「……今日、ちゃんとお前と話せたわけだし、もう少し、一緒にいたいっつーか…その」
『っ!』
初めて、笠松くんが初めて恋人らしいことを言ってくれた。嬉しくないわけがない。だからもちろん私の答えは…
『今日は部活休む!』
「っ、いいのか?」
『うん!吹部なんて人いっぱいいるし私一人いなくたってなんともないし。それより笠松くんは平気なの?』
「いや、さっき思い出したんだが今日自主練なんだ。だから監督もいない」
『そっか、よかった。じゃあ今日は一緒にいれるね』
そう言うと笠松くんはさっきよりももっと赤くなった。
これから笠松くんと何を話そうか。
少年少女の恋愛事情