その日、私たちバスケ部は練習試合のためバスに乗って他校へと向かっていた。
「名前ちゃん眠そうだな」
『昨日勉強してたら寝るの遅くなっちゃってさぁ』
「名前センパイ偉いっスねぇ」
黄瀬くんにそう言われたからそんなことないよと返した。それでも黄瀬くんは偉いと繰り返している。
まあ黄瀬くんは普段勉強しないだろうからな。勉強嫌いって言ってたし。
「名前ちゃん、寝たかったら笠松の肩借りて寝ていいぞ」
『えっ?』
「おい!何勝手に言ってんだよ!」
「名前ちゃんが眠そうにしてるんだぞ!それくらいいいじゃないか!大体何で笠松が名前ちゃんの隣なんだ!」
森山くんは後ろからそう言い笠松くんに殴られた。そもそも何で私が笠松くんの隣に座っているのか、それは笠松くんの隣が丁度空いていたからだ。私はマネージャーだから監督の近くに座った方がいいと思った。でも私がバスに乗ったとき監督の近くで空いている席は笠松くんの隣しか無かった。笠松くんに座っていいか聞くと彼は一瞬驚いたような顔をして顔を赤くしていたけど良いと言ってくれた。だから私は気にせず座った。
「森山お前次大声だしたらバスから降ろすからな」
「っ!なんでそうなるんだ!」
「うるせぇんだよ!」
この二人はいつもこうだ。試合の時は息ぴったりですごいのに、普段は全然ダメ。ほとんど森山くんのせいだけど。
それにしても静かにしてほしいものだ。主に森山くん。私眠いんだけどな。ちょっと寝ようかな。どうせバスで何かする訳じゃないし。
『笠松くん、私少し寝る。着いたら起こして』
「えっ」
『…?……あ、笠松くんの肩は借りないから安心して』
「おう…」
私が寝ると言うと笠松くんが一瞬変な顔をしたから何かと思った。たぶん私が肩を借りると思ったんだ。
「笠松お前今残念そうな顔しただろ」
「っ!してねぇよ!シバくぞ!」
また森山くんが余計なこと言うから。もう。笠松くんが残念がるわけないじゃん。女子苦手なんだから。
『森山くん、そろそろ監督怒るから静かにしてね。おやすみ』
最後に聞いたのは森山くんの笠松席変われよマジで、だったと思う。
私は数十分後目を覚ました。温かいものを肩に感じながら。
『あれ…?私…』
「っ!」
『えっ』
横を向くと真っ赤な顔の笠松くんと目が合った。後ろの森山くんと黄瀬くんはクスクスと笑っていて、通路を挟んで隣にいる小堀くんは優しく微笑んでいる。
『何かあった?笠松くんおかしいけ…、あっ』
そこで私は一つの可能性に行き当たった。さっき森山くんが言ってたことだ。もしかして私は笠松くんの肩に頭を乗せていたのではないだろうか。だとしたら申し訳ないし何より恥ずかしい。みんなの前でそんなこと。
『えっと、森山くん、私何した?』
「笠松の肩借りて寝てた。それはもう幸せそうに」
『っ!』
やだ、幸せそうに寝てたとかホント…?
ますます恥ずかしくなった。でもそれは隣に座っている笠松くんも同じではないかと思う。
『あの、笠松くん、ごめん…、肩借りないって言ったのに』
「い、いや、俺は…、べ、べべつに…」
そうは言うがどう見ても大丈夫そうではない。すごいどもってるし、顔の赤さ尋常じゃないし。
見てるとこっちまで赤くなっちゃうよ。あぁ、もう。恥ずかしい。穴があったら入りたいって初めて本気で思った。ホントに思うことあるんだな。
「途中笠松センパイ名前センパイに手掴まれてマジで焦ってて面白かったっスよね」
「っ!黄瀬てめぇ!」
えっ、ちょっと待って黄瀬くん今なんて?私が笠松くんの手掴んだ?えっ?はっ?
『……っ!ご、ごめんっ!気持ち悪かったよねっ!』
「いや、笠松満更でもなさそうだっ」
「シバくぞ森山!!」
「もうシバいてるだろ!」
笠松くんは後ろを振り返り森山くんを殴った。
てゆーかちょっと待って笠松くんが満更でもなさそうだったとかホント?笠松くん女子苦手だよ?
ホントかどうか気になってじーっと笠松くんを見つめると顔を逸らされた。
何も言ってこないということは森山くんが言ってたことは本当なんだろうか。でもまさか、女子が苦手な笠松くんが。
「べ、別に喜んでたとか、そーゆーわけじゃねぇからな」
『えっ?』
「嫌ではなかった、ただそんだけだ」
『っ…』
それきり笠松くんは腕を組んで目を閉じてしまった。もう話しかけるなということなのだろう。というかさっきのは一体。
もやもやした気持ちのまま目的地に着き、結局私は笠松くんの気持ちを知ることはできなかった。でも目を閉じている笠松くんの顔はずっと赤いままだった。
期待してもいいですか
(笠松くん、帰りも隣座って良い?)
(っ!……おう)
(笠松ニヤニヤすんなよ気持ち悪い)
(し、してねぇよ!シバくぞ!!)