休日、部屋でのんびり雑誌を見ていたら携帯が震えた。一瞬メールかと思ったがなかなか鳴り止まず着信だと分かり急いで携帯を手に取った。

ディスプレイを見るとそこには笠松幸男の文字。笠松くんから電話なんて珍しいな、なんて思いながら携帯を耳に当てた。



「森山お前ふざけんじゃねぇシバくぞ!」

『っ…!』



電話の向こうの笠松くんは声を荒げて怒っている。というかちょっと待ってほしい。私は森山くんではない。電話をかける相手を間違えているのではないだろうか。



「おい、聞いてんのか森山!さっきのメール名字に送ったら殺すぞ!」

『……』



さっきのメール…?

聞きたいことはたくさんあるが取りあえず笠松くんに電話の相手を間違えていることを伝えた方がいいだろう。私はゆっくりと口を開いた。



『笠松くん』

「……っ!名字!?」

『あの、一回ディスプレイを確認した方がいいかと…』

「……あっ」



通話口から小さく焦ったような声が聞こえる。そのあと笠松くんは数秒間なにも言わずにいたが私が呼びかけると返事をした。



『森山くんにかけたつもりだったんだよね?』

「おう…」

『私の話だったから間違えて私にしちゃったんだね』

「……」

『何も聞かない方がいいよね?』

「……そんなに気になるんなら森山に聞いてくれ。俺の口からは言えねぇ」

『分かった。じゃあ明日森山くんに聞くね』



私がそう言うと笠松くんはそれっきり黙ってしまった。そんなに聞かれたくない話だったのか。森山くんに聞くのはやめた方がいいのだろうか。



『えっと、森山くんに聞かない方がいい…?』

「いや、別に…」

『そう?でも笠松くんなんか聞いてほしくないみたいだから…』

「……そんなことも、ねぇ」

『…?』



どっちなんだろう。聞かれたくないけどホントは聞かれたいのかな?一体どんな話だろう。笠松くんの口からは言えないって言ってたし。



『笠松くんが聞いてもいいって言うんなら明日森山くんに聞くけど』

「別にいい…」



笠松くんから許可を得たので明日森山くんに聞いてみることにした。



「名字」

『ん?』

「今、何してた」

『え、雑誌読んでた。笠松くんは今日は部活お休み?』

「あぁ」

『そっか。じゃあちゃんと休まないと。いつも頑張ってるんだから』

「そんな頑張ってねぇよ…」

『え、そんなことないよ。笠松くんいつも頑張ってるよ。私ちゃんと見てるから知ってるもん』

「っ、名字…」



笠松くんが頑張っているのはみんなが知ってることだ。黄瀬くんも、森山くんも、小堀くんもみんな知ってる。


笠松くんは自分では頑張ってないと思ってるのかな。いつもあんなに頑張ってるのに。



『あの、』

「名字」

『っ、なに?』

「その、今から…、会えねぇか…?」

『えっ…』



会えないかって、それはつまり、デートのお誘い?……きっとそうだよね。

笠松くんとデートなんていつぶりだろう。最近お互い忙しくて全然してなかったからな。



「いきなり言われても困るよな」

『いや、そんなことないよ!会いたい!』

「っ!………ならよかった」

『うん!あ、どこで会う?』



笠松くん部活で疲れてるよね。だからうちに来てもらうのは悪いしな。でも外だと人いるから嫌だな。できれば二人っきりになれるところがいい。



「どっか行きたいとことかねぇか?」

『行きたいところかぁ…、うーん』



あ、そうだ!外でも二人っきりになれる場所あるじゃん!あそこなら個室だし確実に二人っきりになれる!


私は思いついたその場所を笠松くんに伝えた。笠松くんはすぐにいいと行ってくれ、1時間後に駅前集合になった。

急いで支度をして家を出て駅に向かうと既に笠松くんの姿があった。待った?なんて聞いてみると俺も今来たとこだ、と言われ少しキュンとした。きっと結構前から待ってたと思う。



『じゃあ行こっか』

「おう」



歩き始めると笠松くんに手を掴まれた。学校帰りはいつも手を繋いでるけど私服で手を繋ぐのは久しぶりだからいつもよりもドキドキした。

しばらくしてお目当ての場所についた。受付をすませ指定された部屋に行く。



『笠松くん先歌う?』



私たちがやってきたのはカラオケ。ここなら二人っきりになれるしおまけに笠松くんの歌も聴ける。デートにはうってつけの素晴らしい場所だ。



「名字からで…」

『ふふっ、分かった。じゃあ私から歌うね』



私が歌っている間笠松くんはずっと私のことを見ていた。歌い終わってからそのことを言うと悪い、と謝られた。

ちょっと納得いかなかったから笠松くんが歌っている間私も同じように笠松くんを見つめた。そしたら笠松くんは顔を真っ赤にさせて歌どころではなくなってしまった。



『笠松くん、大丈夫?』

「っ…」

『ずっと見られるの恥ずかしいでしょ?笠松くんも私のことずっと見てたんだからね』

「だから、それは悪かったって」



笠松くんは申し訳なさそうな顔でそう言う。でも歌っている笠松くんを見ないのは無理かもしれない。だって…



『笠松くんと一緒にいるときはずっと笠松くんのこと見てたいって思う』

「っ!」

『だから笠松くんが恥ずかしくて歌えなくなっても私は笠松くんのこと見つめ続けたい。ダメ?』

「……勝手にしろ。その代わり俺もお前のこと見るからな」

『うん、いいよ。その方が嬉しいし』

「っ…」



パチリと目が合いすぐに逸らされる。笠松くんは歌っている私は見つめられるくせに私の視線が自分に向けられているときは私を見れないらしい。



「早く歌えよ」

『うん、歌うよ。でも今度は笠松くんを見ながら歌おうかな』

「なっ!」



そのあと本当にそれを実行したら彼氏を見つめながら歌う彼女と、彼女と目が合わないように下を向く彼氏、というなんともおかしな状況になってしまった。




あなたの愛を拾いました
(森山くん、昨日笠松くんにメールしたよね?その内容って何だったの?)
(えっ…)
(笠松くんにはちゃんと許可取ってるから教えて?)
(……笠松が名前ちゃんとちゅーしたいって言ってたから、それ名前ちゃんにメールで言うっていうメールを送った)
(えっ…(笠松くん私とちゅーしたいと思ってるの?なにそれすごい嬉しい)



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