火神はバスケばかだ。そんなの付き合う前から知っていた。でもまさか、ここまでバスケのことしか頭にないなんて、思いもしなかった。学校にいるときも、デートをしているときも、いつもバスケの話ばっかり。それにデートの帰りは大体バスケをしているし。私はその間ずっと暇だ。火神のバスケを見るのは嫌いじゃないしむしろ好きだ。でも、火神がひとりでバスケをしているのを見てもあまりおもしろくない。私は試合をしている火神が好きだ。
「おい、聞いてんのか」
『えっ、あぁ、ごめん。聞いてなかった』
「っ…」
学校帰り、火神と二人で歩いていた。どうやら火神がなにか言っていたようだが私は全然聞いていなかった。
火神は私が話を聞いていなかったのがよほど気にくわなかったらしく、不機嫌そうな顔をしながら無言で歩くスピードを上げた。
毎日毎日バスケの話ばっか聞かされるこっちの身にもなれよバカ。たまには私の話も聞け。最近自分の話ばっかじゃん。私の話なんて全然聞いてくれないじゃん。
『……ねぇ火神、歩くの早い』
「あぁ、わりぃ」
全然悪いと思ってないくせに。顔がわりぃって顔じゃないよ。
さっきの話、なんだったのか聞いた方がいいかな。
『ねぇ、さっきなんの話してたの?』
「は?」
『いや、だから、私が聞いてなかった話』
「別に大したことじゃねぇから」
『あっそう』
なんだよ、せっかく聞いてあげたのに。てゆーか大したことじゃないならいちいち言うなよ。
「お前、最近ずっとつまんなそうな顔してるよな」
『えっ?』
「そんなに俺と居るのが嫌か」
『っ…、そんなんじゃ、ない…』
「じゃあなんでそんな顔してんだよ」
……あんたがバスケの話ばっかしてるからじゃん。私の話なんて全然聞いてくれないし。私のことなんて全然考えてないんでしょ?どうせ私はあんたにとって話を聞いてくれるだけの存在なんでしょ?
辛くて苦しくて悲しい気持ちになる。
『っ、ぅ…』
「は!?ちょっ、お前泣いてんのかよ!」
『泣いて、ないしっ…』
「泣いてんだろ!」
誰のせいでこうなったと思ってんのよ。全部あんたのせいよ。
火神は焦っているのか眉を下げて困った様な顔をしている。
『火神が、』
「は?」
『あんたが、私の話全然聞かないで、ずっとバスケの話ばっかしてるから…。私のことなんて、なんとも思ってないんでしょ?私じゃなくてもいいんでしょ?もうあんたといても楽しくないし、辛いの…』
「っ…」
火神は黙り込んだ。
なんだ、図星か。もう誰でもいいのか。私じゃなくて。
「悪かった…」
『えっ?』
「お前がそんな風に思ってたなんて知らなかった。でも、誰でいいなんてことねぇ!お前じゃなきゃ、ダメなんだ…」
『っ!』
「俺はお前に、俺の一番好きなバスケをもっと知ってほしくて…、だから…」
知らなかった。火神が私にバスケを知ってほしくて毎日バスケの話をしてたなんて。そんなこと、考えもしなかった。
全部私の勝手な勘違い。私が勝手に思い込んで、火神に愛想尽かされたと思って…。
でも…
『私はもうバスケ好きだし、試合だってよく見るからちゃんと分かってるし、だから毎日言わなくてもてもいいのに…』
「わりぃ…」
『……ううん、いいの。だって火神は、私に話したくて話してたんでしょ?私じゃなきゃ、ダメだったんでしょ?』
「おう」
『だったらもういい。私の勘違いだったから。……私はもう、火神は私に興味がないのかと思ってたから』
「そんなわけねぇだろ。興味がなかったらお前にバスケの話なんてしねぇよ」
『そうだね。だって火神、バスケばかだもんね!』
「うっせぇ」
そう言いながらも火神はどこか嬉しそうだ。
『火神、バスケの話もいいけど、これからは違う話もしてね?』
「違う話って、例えばなんだよ」
『んー、黒子くんの話とか?』
「は?なんで黒子なんだよ」
『だって黒子くん面白いじゃん!』
そう言うと、アイツのどこが面白いんだよ、と返された。火神は黒子くんの面白さが分かっていないらしい。可哀想に。
『黒子くんてさ、影薄いけどたまに真顔で恐ろしいこと入ったりするし面白くない?』
「面白くねぇよアイツが真顔で言うとむしろ怖ぇよ」
『えー、そうかなー?』
私は面白いと思うんだけどなぁ。
……あっ!
『ねぇ、今日火神の家行きたい!私火神に話したいこといっぱいあるの。だから、聞いて?』
「ったく、しゃーねぇな」
『やった!あ、夜ご飯は私が作ってあげる!』
「マジか!」
『うん!なにがいいかなぁ』
「そーいや今うちなんもねぇな」
『あ、じゃあ買い物してく?そこで何にするか決めようか』
「そうだな」
私は火神と手を繋ぎながら歩き始めた。
私じゃあなたを…
(やっぱ火神の家広いなぁ)
(まあ元々二人で住むつもりだったからな)
(お父さんだっけ?)
(おう)
(お父さんと住んでたら私のこと紹介できたのにねー)
(は!?なに言ってんだお前!)